「炎情」は、妖刀伝二次小説サイトです。 綾女と左近の、本編でのあの別れに納得できなくて、色々な妄想を膨らませ、ちりばめています。

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大江戸物語1

行き交う人の中に花一輪。
男のなりをしているが、左近の目には花に見えた。
「またお前は。なぜいつもそんな恰好なんだ」
「ああ、あちこち動き回るのにちょうどいいからな。細かいことは気にするな」
幼馴染の気安さで、彼女に気軽く声をかけられる男は左近だけだった。
もう戦乱の世ではない。
17になろうとしている良家の娘なのに、綾女は動きやすい恰好を好んでしていた。
「待てコラ」
そばをすり抜けようとする綾女の腕を左近は捕らえた。
「今宵は祝言だろう。風呂に入って着替えろ」
綾女は面倒くさそうに腕を振り払った。
「わかったから…」
着替えのこともあったので、綾女はしぶしぶ家に戻った。
「綾女、またそんな格好で。今宵は祝言なのですよ。早く湯浴みなさい」
母親が左近と同じことを言った。
「祝言祝言て、私のことじゃないでしょ?兄上の祝言じゃない」
文句を言いながら、綾女は髪を下ろし、着物を脱いだ。日焼けを知らない肌は白く透き通り、髪は絹のように滑らかだ。さらに成熟しつつある体は日ごろの運動で引き締まっている。だが綾女にはその自覚がない。
着替えをし、薄く化粧を施した綾女は稀にみる女らしさを醸し出していた。
「馬子にも衣装だな」
照れ隠しに左近がいう一言は、いつも余計だ。今も綾女に睨まれた。
「俺がお前の隣に座るときを想像してしまうな。白い衣装を着て、潤んだ瞳で俺を見つめて…。おい、聞いているのか」
さりげなくプロポーズをしたつもりが、綾女はさっさと通り過ぎて行った。
祝言は滞りなく済んだ。
新婦は綾女より一つ下の桔梗だ。幼いころから進之助さま~とまとわりついていた。初恋が実った形だ。
「桔梗が兄嫁なんて、不思議だな」
綾女がひとりごちていると、左近が隣に来た。祝いの場には不似合いな刀を下げている。
「来ているぞ…お前は動くな」
とたんに姿を消し、しばらくすると不穏な気配は消えた。汗ひとつかかずに左近が戻ってくる。
「ふたり、か。おおよそ、婚礼の賑わいに紛れ込んできた者だろう」
「ああ」
言葉が途切れると、風に乗って小さく声が聞こえてきた。
「今宵は、寝所に近づかぬようにな・・」
左近はわずかに顔を赤らめ、綾女を部屋に押しやった。わからないままに頷いた綾女だった。

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