「炎情」は、妖刀伝二次小説サイトです。 綾女と左近の、本編でのあの別れに納得できなくて、色々な妄想を膨らませ、ちりばめています。

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春雨

つい数日前まで、安土の桜は咲き誇っていた。
その喧騒さに紛れてはいたが、いざその季節が終わりを迎えると瞬く間に静けさを取り戻す。
毎年、同じ景色。
けれどその季節を過ごす人々は少しずつ変わっていく。
「雨だ」
「傘持ってこなかったわよ」
「春雨だ。濡れて参ろう・・なんてな」
「何言っているのよ」
年若のカップルが店を出て行くと、そこにはその店のママだけが残った。
テーブルを片付ける手に少し皺が見えている。カップを洗い終えると、カウンター内の椅子に腰掛け、窓の外を眺めた。
あの日もこんな雨だった。
「この間のお花見の写真ができたの」
綾女が少し腰を庇いながら入ってくる。その後ろに続く左近はスッキリした男前の顔だ。
はじめは綾女の腰が痛いのかと思い声をかけてしまったが、一瞬でユデダコになり左近を可愛く睨むその顔で何があったのか、やっと佳代はわかった。
やっと思いがつながって、左近は嬉しくて仕方がないのだ。対する綾女も恥ずかしがりながらきっちり左近の思いに応えている。
「写真見せて」
綾女から受け取った写真。どれもきれいに撮れている。
「あ、これいいわね」
佳代が抜いたその1枚。桜の花びらが舞い、その中で綾女と左近が仲良く寄り添って眠っている。
「やだ、誰が撮ったのかしら。恥ずかしい」
佳代がうふふと笑う。
「私よ。カメラ出しっぱなしだったからつい撮っちゃった。いいわよ、このふたり」
「花びらといえば、もう最後の桜吹雪よ、安土山は。今日の雨で完全に散るわねぇ」
残念そうに綾女が呟く。窓を見た左近が綾女をつついた。
「ほら、噂をするから。雨だぞ」
「あら本当だわ。傘持ってこなかったわよ」
「春雨だ。濡れて参ろう・・なんてな」
「何言っているのよ。じゃ、また来るわね」
綾女はもういちど佳代を振り返り、軽く手を振った。
少し色褪せたその写真。
綾女と左近はそれ以来店に来ることはなかった。
最後の桜とともにふたりは魂を散らした。
現場に駆けつけた佳代は、ふたりが手を伸ばし、指先を絡めあったまま安らかな顔でいるのを見た。
・・・ずっと一緒。
・・・ああ。
その会話が聞こえてきそうな表情だった。
「ただいま」
龍馬が帰ってきて、佳代の持っている写真を覗き込んだ。
「また見ていたのか。明日はふたりの命日だ。存分に話ができるぞ」
「そうね」
佳代は写真をしまった。
安土山の桜は雨とともに最後の花びらを振り落としていた。

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