すでに卒業し、学生でなくなっていた綾女は家事をしながら左近の帰りを待っていた。
その年も終わりを迎える頃、明治天皇が崩御し、元号が大正に変わった。
翌年、春。
咲き始めた桜の下、ベンチで本を読んでいた綾女は目線の先に誰かの足を見、見上げた。
「ただいま」
そこにいたのは左近。少しやつれて髪も長くなっているものの、変わらない姿がそこにあった。
「あ・・・」
声にならないまま、綾女は嬉し涙で瞳を潤ませた。そんな綾女を左近はゆっくり抱きしめた。
「夢じゃないのね?何度も帰ってくる夢を見ていたのよ」
「夢じゃない。会いたかった、綾女」
しばし熱い抱擁を交わし、やがてどちらからともなく唇を重ねあった。
「まあ、左近!」
義母も義父も先ほどまでとは一転し、再び家の中は明るい光で満たされた。
船が沈んだとき、左近は海に浮かんでいた。氷山が浮かぶほどの水は冷たく、すぐに体の感覚が失われた。濡れた前髪は凍りつき、やがて心地よさと眠気が全身を支配した。どのくらい海の中にいたのか、かすかな光が左近を照らし、閉じそうになる瞼を必死に開けて答え、戻ってきた救命ボートに引きあげられた。とたんに左近は意識を失い、低体温症のためしばらく入院治療を受けていた。軽い凍傷になったものの、それらもすぐに回復し、療養してから帰国したのだった。
桜が満開に咲く中、綾女と左近は祝言をあげた。やがてふたりの間には数人子供が生まれ、10年後の関東大震災にも家族そろって無事に生き延び、それぞれの寿命を全うしたという。
- ちょっと昔
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こんばんは
ついに完結ですね
タイタニックな展開に、どうなってしまうのかと思いましたが、ふたり、幸せになってなによりです
(^^)
Diaryからお察しするところ、タイタニックの時期から逆算されて時代設定されたのでしょうか!?
期待以上の耽美な設定と、波乱万丈のストーリー、ありがとうございました。私の頭では、どんだけ寝不足でがんばってもタイタニックは出てきません。
満開の桜の下での祝言・・・とってもきれいだったでしょうね~~
時代からいくと和装でしょうか~~~
なんともう少しで120000Hit!!!
チャンスがあればまたリクエストさせていただきますね♪
希仁 拝
希仁様
いつもコメントをありがとうございます。
戦国時代は割と得意なのですが、明治以降の近代史はちょっと苦手でした。そこをタイタニックの事件と組み合わせることで中和(無理矢理)できました。
私の中では、いつの時代も、綾女と左近は結ばれるべき「さだめ」なのですよ。
カウント、120000になりますね。自分でもびっくり!です。