「綾女はお正月実家に帰るのか」
左近が聞いてきた。
「うん。長野にいるんだ。左近は?」
「俺は石川。いつもは帰らないけれど、今年は帰らなきゃな」
「そうなんだ。今晩泊まって、明日には帰るの?」
「帰ってほしいのか?」
からかうような左近の瞳。メガネに隠されてよく見えない。
「帰りたくないくせに」
冗談で返そうとした。
「帰る家にいつも綾女がいてくれたらいいな」
「えっ」
左近はメガネを外して綾女を見た。吸い込まれそうな瞳の色。
「初めから、そのつもりだった。今はまだ早いけれどな。時期がきたらきっと・・・」
「左近・・・」
左近は綾女の肩を抱いた。
「あさって、朝一番で帰るよ」
綾女の部屋はワンルームだった。
「上がって。あんまり作れないけれど、本を見ながらご飯作ったの。シャンパンもあるよ」
暖房をつけ、お風呂を沸かす。
「寒かったでしょ、すぐにあったかくなるよ、コートはこれにかけてね」
けして広くはないが、そうじが行き届いた気持ちがいい部屋。
「はい、これ飲んで」
綾女がテーブルにお茶を置いた。左近はハンガーにコートをかけた。
「何を作ったんだ?」
「だめ、秘密。これから出すから座っていて」
綾女は冷蔵庫を覗き、食器を揃え、てきぱきと動いていた。
フィットしたセーターにスリムジーンズ。活動的な綾女らしい格好である。
テーブルに次々と料理が並べられる。
「うまそうだな」
「見た目だけだよ、初めてこんなに作ったんだもん」
左近のグラスにシャンパンを注ぎながら綾女が言った。綾女はジュース。
「じゃ、左近。メリークリスマス」
「メリークリスマス」
カチンとグラスを合わせる。
綾女の料理は心がこもっていてどれも美味しかった。一人暮らしだが、きちんと毎食作っているんだろう。
左近は全部平らげた。
「すごい、あんなに作ったのに。苦しくないの?」
「うまかったからな。それにこれくらいの量は男なら平気だよ」
「そうなの?男の人ってすごく食べるんだね。でもそれにしては太っていないし」
「代謝というか、体質だろうな」
綾女はお皿を片付け始めた。
「いいなぁ、私はすぐに太っちゃうから羨ましいよ」
「どこが太っているんだ?」
「だから気をつけているの。運動したりストレッチしたり。あ」
綾女が振り向いた。
「お風呂入る?沸いているからお先にどうぞ」
「一緒に入るか」
左近が隣に立った。綾女はまた赤くなった。
「だ、だめよ、私はここを片付けなきゃ。タオル出すね」
慌てながら綾女はタオルを左近に渡した。
左近はそれ以上からかわず、お風呂に入った。
- 現代版
- 23 view
この記事へのコメントはありません。