紅葉が深まるころ、綾女は産休に入った。最近は腰を痛がる。
「綾女、腰をマッサージしようか」
「ありがとう、助かるわ」
おなかが急に大きくなり下がってきたので、腰に負担がかかっている。さらに綾女は妊娠線が出ないようにこまめにマッサージをしている。
「あと2週間でこの子に会えるわね」
俺も綾女のおなかを撫でる。ベビーベッドなどすべてそろえ、いつ生まれてもいいように準備はできた。
「今晩が最後だな」
「そうね」
俺は綾女の中ではぜる。綾女も気持ちよさげに味わった。
その後陣痛が始まった。
お迎えをしてしまったのかもしれないが、俺は急いで荷物を持って車を出した。
車で病院に運ぶさなか、綾女は破水した。陣痛の間隔もどんどん短くなり、病院到着後5時間で男児を産んだ。
「初めてなのにすごい安産でしたね」
みんなが驚くほど順調に出産が進み、切開もせずに済んだ。俺も立ち会い綾女の手を握っていたが、綾女は振り乱すこともなく助産師の指示通りに呼吸をそろえていた。生まれた子は俺そっくりの美男子。新生児室でもとびきりの美男子だった。
出産後から綾女は胸が張ってきた。スムーズに出産を終えたとはいえ、まだ出血はあるし腹痛もある。そして疲れていた。
2日目から母子同室のため、綾女は授乳していた。胸の張りがあり、俺が揉むと母乳が噴出した。慌ててタオルを置くが瞬く間にびっしょりになる。その匂いで子供が起きたのか、泣き出す。綾女が子供を抱いてお乳を含ませると、ものすごい勢いで飲みだした。片方飲むともう片方も飲み、満腹になって寝る。
俺と綾女は顔を見合わせて笑った。すごい飲みっぷり。
「さすが左近の子供ね」
綾女がからかい、そっと子供を寝かせた。俺は母乳が染みたタオルを洗った。甘い香りだ。
「こんにちは」
龍馬と佳代がお見舞いに来てくれた。子供の結衣ちゃんを連れている。佳代に似たかわいい子だ。
「来てくれてありがとう」
「聞いたわよ。すっごい安産だったんでしょ。5時間なんて信じられない。私24時間かかったもの」
「でも痛かったのよ。幸い切らずに済んだけど」
「それもすごいわ。普段からのマッサージがよかったのかしら、左近さん。この子、左近さんそっくりね」
「今、授乳したところなの。何もかも初めてだから、いろいろ佳代さんに教えてもらいたいわ」
佳代と綾女のおしゃべりは止まらない。結衣も佳代に抱っこされて女子会になっている。
俺と龍馬はコーヒーを飲みに行った。
「5時間なんて、俺もびっくりしたよ。もっと時間がかかると聞いていたから」
「もしかして、あれかな…」
俺はつい口を滑らせた。龍馬がすかさず聞いた。
「なんだよ。まさか、お迎えしたのか」
「…ああ」
龍馬の手が俺の背中をバンバン叩き、笑った。
「まったくお前らしい。どこまで綾女が好きなんだよ。まぁ、俺も安定期に入ってからできるときはやっていたよ。だって溜まるだろ。佳代も気持ちよさそうだったし。でもさすがにお迎えはしなかったな」
「そういうものなのか」
まぁまぁ、と龍馬はコーヒーを勧めてくれた。
「うちは人並みに時間がかかったし、切ったし、なかなかお乳も出なくて苦労したが。お前のところはよほどお前のマッサージが行き届いていたんだな。これは誉め言葉だぞ」
「ああ、そうとっておこう」
2日後、俺たちは退院した。綾女は子供‐悠生‐の世話に忙しく、増えた体重も見る間に落ちていき、妊娠前よりもすっきりした体になった。
「悠生がたくさん飲むから、食べても痩せちゃうの」
嬉しそうに話す綾女。悠生はママ大好きでどんなに泣いていても綾女が触れると泣き止む。よく飲んでよく寝てすくすくと育つ。
「悠生はママ大好きだな。俺そっくりだ」
「パパも大好きよ、ねぇ」
悠生を高い高いすると手足をばたつかせて喜ぶ。俺と綾女の愛の結晶。綾女の中に宿って、俺たちに会うために生まれてきてくれた。
綾女に出会うまで、そして悠生が生まれるまで、人生は奇跡の連続だ。
悠生が生まれて初めてのお正月を迎え、俺はそう思う。
そして綾女に感謝する。産んでくれてありがとうと。
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