「炎情」は、妖刀伝二次小説サイトです。 綾女と左近の、本編でのあの別れに納得できなくて、色々な妄想を膨らませ、ちりばめています。

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キャンプ

「ふー、やっと着いたね」
バスターミナルで、綾女が体を伸ばした。
夜行バスを使い、朝方に到着。涸沢でテント泊をする予定。左近は二人分の荷物を降ろしていた。
「寒いな」
ターミナルのベンチで軽く朝食をとる。手早くお湯を沸かし、熱いお茶をいれる綾女。おにぎりとゆで卵を出して頬張る。
「お茶だけでも温かいと違うわね」
昨日も定時とはいえ仕事だったのに、買い物をして準備をしていた。20時には迎えのタクシーを呼んでいたため、2時間くらいしか時間がなかったはずなのに、シャワーも済ませた。だからといってバタバタすることもなく、いつの間にか支度を済ませて左近を待つ。
綾女はすごいな。左近は感心していた。
そして今も、気づけば片づけている。
「お手洗い大丈夫?」
「行っておくよ」

バスターミナルから涸沢まで片道6時間。二人ともアクションカメラで撮影しながら歩く。
「もう、なあに?」
左近は綾女ばかり撮るので、恥ずかしがる。
「モデルだから」
背が高くスラリとしている。それに美人。歩き方もきれいだ。
河童橋に着くとまだ早い時間のためか、あまり観光客がいなかった。上高地といえばこの景色だ。河童橋を渡り、しばらくすると明神に着いた。左近は綾女ばかり撮影しながら歩く。綾女は景色や時々左近を撮る。徳沢で名物のソフトクリームを食べる。
「暑くなったから、美味しいわ」
綾女が上着を脱ぐと、いやでも胸が目立つ。その場の男たちが声にならない声をあげて注視する。綾女は気づかない。左近はギラリと睨みをきかせ、牽制した。
「行きましょうか」
綾女が歩くと、胸が揺れる。もちろん綾女は気づかない。
「こういうところはまったく気づかないんだよな。俺が睨みをきかせないとな」
左近は苦笑する。
横尾では水分補給する。ここまで3時間歩いてきた。ここまでは割と観光客の姿もあったが、横尾からは登山の装備が必要となる。
横尾を出ると、すぐに登山道に変わった。息があがらないように、ゆっくり進む。
さらに3時間歩き、涸沢カールに着いた。
「けっこうテント張っているわね。カラフル」
「テントの許可をもらおう」
少し並んで許可証をもらってきた。

左近が手早くテントを設営していく。ふたり用のテント。風上に岩陰がくるような位置で、よほど覗きこまないと中がわからない。
左近がビールを買ってきて、綾女は夕食の準備に取り掛かる。すき焼きと松茸ご飯。漬物もある。
「豪勢だな」
「だって、ずっと来たかったんだもん。キャンプ道具も色々調べて選んだのよ」
「そういえば、取材してからだな、興味持ったのは」
「うん。この仕事をしていていいのは、いろんなことに興味が持てることね」
話しながら手際よく調理をしていく。いい匂いが立ち上る。綾女はすごく楽しそうだ。そんな様子を撮影しながら、左近もニコニコしていた。
「できたわ」
「うまそうだな」
コンパクトなキャンプ用品だが、案外容量多く作れる。ふっくらと炊けた松茸ご飯を頬張り左近は舌鼓を打った。
「上手に炊けたわ。わぁ、嬉しい」
すき焼きとビールを楽しむ。漬物も絶品の味。
「おいしかった~」
片づけをしていく。洗い物が最小限で済むように工夫していたので、すぐに終わった。

「すごい星だな」
雲一つない快晴の夜空を見上げる。標高が高いので、星が大きく見える気がした。手を伸ばせばつかみ取れそうだ。
「本当ね。左近と見られてすごく嬉しい」
綾女が左近の手を握ってきた。ちょっと酔っているようだ。普段しないことをしてくる。左近は後ろから綾女をそっと抱きしめた。

翌朝。早い時間だが、外は明るい。
「寒いわね」
お湯を沸かしてコーヒーを左近に勧める。ハムとチーズを挟んだホットサンドを焼いていく。
「いつもと同じ材料なのに、外で食べるからかうまいな」
「そうね。うん、おいしい」
今日はこれから6時間かけて上高地まで戻る。そして一泊して帰宅する。
「ゆっくりできるからいいわね」
涸沢ヒュッテを覗いたり、徳沢でまたソフトクリームを食べたり、ゆっくり上高地に戻り、チェックインした。

シャワーを浴び、部屋のバルコニーから外を眺める。
「川の音がいいね。この時間は人が多いね」
「ああ」
ふたりで外を眺める。ゆっくり流れる時間。時間に追われることもなく、ただそばにいて同じ空間を共有している心地よさ。
「綾女」
左近が綾女の肩を抱く。綾女も身を預ける。しばらくそのまま動かずお互いのぬくもりを感じていた。

翌朝。
綾女がご機嫌斜めだ。左近は爽快な顔をしている。
夕食を終えて部屋に戻ると、左近が「夕べできなかった」と綾女を求めた。綾女はいつも通り応じたが、自宅ではないので声を抑えていた。それが左近にはもどかしくていつもより激しくなった。
「今晩はしないわ」
ホテルを出て綾女が宣言した。せっかくまったりふたりの空間を味わっていたのに、いつものように左近が肉欲をぶつけてきた。それはそれで構わない。ただ、外に聞こえてしまうのに「声出せ」と言われ、懸命に抑えていても漏れてしまう声が聞こえやしないかと冷や冷やしていた。その綾女の気持ちを推し量ろうとしない左近に苛立った。あげくにいつもより激しく抱かれて、それに何度も感じてしまった自分が恥ずかしかった。
「ごめん、激しかったよな」
素直に左近が謝る。
「え?」
その素直さに綾女は少し驚いた。
「聞こえてしまうって気にしていたのに、俺、そんな綾女が可愛くてついやりすぎた。ごめん」
「わかってたの?」
「そりゃあね。綾女が恥ずかしいだろ」
「うん」
「本当は素直に声出したかっただろ」
「うん」
「だから今晩はリベンジな」
「うん。えっ?」
左近が軽くキスをした。綾女は顔を赤くする。
「予約取れた。綾女の声、聞かせてくれ」
左近の甘い低音ボイスに綾女はいつもごまかされてしまう。爽やかな笑みを綾女に向けながら、左近は『テントで抱いていたらとんでもないことになっていた、よく我慢したな俺』と、頑張った自分を自賛していた。
綾女はすっかり機嫌も直り、お土産を手に取ってにこにこしていた。

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