「炎情」は、妖刀伝二次小説サイトです。 綾女と左近の、本編でのあの別れに納得できなくて、色々な妄想を膨らませ、ちりばめています。

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「いや…」
左近の執拗な攻めは、綾女の理性をなくし、体力を奪った。
何度も精を注がれ、何度快楽に身を委ねたか。身体はいやおうなく女として左近を喜ばせ、綾女も女としての喜びに身を浸してしまう。
理性はその行為が終わった後にふと甦る。
ひと月前から頭痛やめまいに悩まされ、なんとなく熱っぽい。
「もしや」
綾女は下腹部に手を当てる。月のものは、もうしばらく来ていない。
誰にも相談できず、相手の左近にさえ気づかれないようにふるまうしかなかった。形ばかり拒んでみるが、今晩も激しく抱かれてしまい、やっとその腕から逃れると、滝まで来た。汗ばんだ肌に冷たい水が心地よい。ここの冷たい水で少し癒されていた。
「まさか、本当にそんなことが」
不意に下腹部に痛みがはしる。血の気が引く感覚とめまいが襲い、綾女はそのまま倒れこんだ。

左近もうすうす気がついていた。気だるそうな様子、胸の張り、時折見せる顔色の悪さ。今までに関係を結んだ女性は数多くいたが、一度や二度の逢瀬で終わっていたため、今回のような経験はない。だが、本能的に察しがついた。
戻らない綾女を探しに出る。

綾女は下腹部に痛みを感じ、意識を取り戻す。
布団に寝かされ、周りの女性が残念そうな顔をしていた。
「かわいそうにねえ、辛かったろうに」
「こんなにきれいな子なのに、かわいそうだよ」
綾女が目を開けると、女性たちは綾女の髪を撫でたり手を握ったり背中をさすったりした。
「あの…あ、もしや」
反射的に綾女の手が下腹部に当てられた。女性のひとりが手を重ねた。
「ここにね、赤ちゃんがいたんだよ。でも生まれる子じゃなかったんだ。本当に生まれてくる子は、何があっても生まれてくるからね」
綾女の瞳に涙が溢れてきた。
「綾女」
左近が現れた。その場の雰囲気ですべてを理解した。
「私、赤ちゃんになんてひどいこと…ごめんなさい、ごめんなさい…」
「もう言うな」
左近が綾女を抱きしめる。泣きじゃくる綾女。辛かった頭痛やめまいはすっかりなくなっていた。
あれだけ執拗に愛していれば、懐妊して当たり前だった。肌を重ねるごとに美しく色づき甘い吐息を漏らす。いつも、いつまでも抱いていたかった。懐妊した辺りは特に色っぽく、左近は高ぶるままに愛を与えた。

綾女は失った子を思っては後悔し涙ぐむ日がしばらく続いた。やがて女性としてのサイクルが戻ると、次第に落ち着いてきた。
「綾女」
左近が抱き寄せても、するりと抜け出てしまう。はじめのうちは左近も仕方がないと無理矢理納得していたが、毎回だとさすがに腹に据えかねるものがあった。
綾女の腕を引き寄せ、強い力で抱きしめる。痛いほどに左近の気持ちがわかる。だが、このまま抱かれると同じ悲劇が起こってしまう。
「左近、だめ」
「綾女」
「だめって言っているでしょ!」
本気の平手が左近の頬を打った。
「どうしてわからない?男は自分の欲さえ満たせばその場限りなのに、女は植えつけられた命を育てるために、自分の身を犠牲にする。それがわからない左近の欲の捌け口にされるのは、まっぴらよ」
「綾女!」
いつも静かな左近が鋭く声を上げる。綾女は一瞬驚いたが、それでも左近から目を離さずにいた。左近の頬が少し腫れている。
「お前の体の痛み、心の痛みは、俺にはわからん。だが、大事なものを失った気持ちは俺にもわかる。俺の子でもあるからな。体調が悪いのは気がついていた。それでも抱いてしまったことは謝る。正直、俺が抱いたから綾女の体に負担をかけてしまったのかもしれないという気がする」
「左近」
綾女の瞳の力が少し和らぐ。
「辛いことを思い出させてすまないが、一度お互いの気持ちを吐き出さないと、前には進めないと思っていた。だから大きな声を出してしまった」
「前に進む…」
左近は優しく頷いた。
「俺は、お前と前に進みたい」
綾女は目を伏せた。ずっと失った子のこと、原因を考えていた。そこで自分は止まっていた。
「産婆さんが言っていたわ。本当に生まれてくる子は、何があっても生まれてくるって」
「そうだ。だから俺もお前も生まれてきた。お互いに巡り合うためにな」
綾女がクスッと笑う。
「巡り合うためだったのかしら」
「当たり前だろう。だから俺たちも未来を作ってやろう」
左近は優しく綾女を抱き寄せた。綾女の手が左近の頬に触れる。
「腫れたわね。渾身の力で叩いたから」
「今になって痛くなってきた。綾女の平手は天下一だ」
「もう、左近たら」
綾女はやっと左近の腕の中に戻ることができた。

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