今晩は中秋の名月。
1年で最も美しく月が輝く。
左近は滝へ急いでいた。
思わぬ用が入り、戻りが夜更けになってしまった。
ここからあの滝まではまだ1里(約4km)ある。左近の足でも四半刻(約30分)かかってしまう。
月が昇り始める。
やっと滝に着いた。
急いで来たので、足は切り傷だらけで、あちこち血がにじんでいる。だが左近は一向に構わず、綾女の姿を探した。
「綾女っ」
いつも綾女が現れる、滝つぼ近くの岩にも姿が見えなかった。こんなに月光が降り注いでいるのに。
月が昇るときにいなければならなかったのか・・?
・・左近・・
綾女の優しい香りがした。
「綾女、いるのか。どこだ?」
辺りを見回す。だが姿が見えないまま、優しい声が聞こえた。
・・ありがとう、左近。会いに来てくれてうれしかった・・
「姿を、見せてくれ」
香りが左近をつつむ。
・・もう、私にそれほどの力はない。こうして、話をするのも今日が最後・・
香りがだんだん薄れていく。声も遠くにかすんで、聞こえなくなった。
「綾女ー!!」
左近の切ない叫びがむなしく響いた。
幾度自分を責め続けただろう。
左近は拳で地面を叩いた。綾女を今、永遠に失ってしまった。
ふと気がつくと、もう黎明であった。
冷え込む空気が左近の頭を次第に落ち着かせていった。
パシャ・・
水がはねる音が聞こえた。
左近がそちらに目をやると、白い裸身の女が滝の水を浴びていた。
黒い髪。
「綾女・・か?」
声かけに女はゆっくりと振り向いた。
その瞬間、左近は水の中に飛び込んで女に近づき、抱きしめた。
「左近?」
間違いない、綾女だった。綾女も左近にすがりついた。
「今度は消えないな?」
綾女はうなづいた。
「左近、ありがとう。やっと戻ってこられた・・・」
左近が何度も確かめるように綾女の全身を愛撫する。
やがて2人は滝から上がり、綾女は左近の足に気がついた。
「こんなに傷ついて・・」
手早く処置をしていく。
「これくらいいいさ。お前に会えなくなることに比べたらこんな傷くらい構わない」
綾女の頬が見る見るうちに染まる。
「も、もうこれでいいだろう」
「すまないな」
左近はさらしの巻かれた足を軽く叩いた。綾女は手早く着物を身につけた。朝日が差し込む中、綾女は消えずに左近とともにいた。ゆっくり朝日を見やる。
「こんなに朝日が気持ちのいいものだとはな」
目を閉じて日の光を顔に浴びた。左近は綾女の唇にそっと唇を重ねた。
「お帰り、綾女」
「うん・・・」
左近の胸に顔をすり寄せる。
「ただいま・・」
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左近の心からの愛が、綾女を甦らせたのでしょうね。
朝日の中を抱き合う二人をみて、ぽろっとしました。お幸せに。。
傷つきながらも綾女に会うために馳せ参じた左近。
いいですね・・・。
次の記事、月光4では綾女サイドの話です。併せてお読みくださいね。
いいなぁ、こんな恋をしてみたいです。