左近の腕の中で息を引き取った綾女。
冷たいが暖かい月に守られ、空間を漂っていた。
どこも痛まず、苦しくもない。ただ左近の悲痛な叫びが悲しかった。
私は、これでいいのだろうか・・。
自分に問いかける。
どこからか綾女に語りかける声が聞こえてくる。
『まだお前は死んでいない。
妖刀の力を引き出しすぎ、体が拒絶反応を起こしたのだ。それ以上関われば確実に死に至ったはずだ。』
まだ生きているのか?
私はまだ生きているのか?
『それは・・どちらともいえない。
ここは死にゆく者が一時的にとどまるところ。
このまま漂えば、確実にお前にも死が訪れる。』
そうか・・。
でも私は約束がある。それを果たしたい。
左近に・・また会いたい。
『待ち人がいるのか。
ならば、お前だけの意志ではなく、その者の意志も必要になってくるが。
これから3ヶ月の間、満月の夜だけお前に体を与えよう。
3日間だが、お前とその者が会うことができれば、お前は再び生きることができるはずだ。』
わかった。
綾女と左近の強く想い合う心が、綾女をこの世に引き戻した。
気づくと滝の水を浴びていた。左近が自分を呼ぶ。
傷つきながらも自分のために来てくれた。綾女は左近に早く触れたかった。
生身の体で早く左近を感じたかった。
そして。
左近に強く抱きしめられた時、綾女は切ないくらいの愛情を感じていた。
ああ、私はこんなにも左近のことを愛している。
ひとりの女として左近を愛している。
左近の暖かい手が確かめるように綾女の体を触っていく。嬉しかった。
もう、離れたくない。
水から上がり、左近の足に処置を施したあと、顔に当たる朝日に生きている喜びを感じていた。
この世のものは、なんと美しいのだろう。
日の光、小鳥のさえずり、木のざわめき。すべてが身に染み入るようだった。
唇に左近がそっと触れる。
「お帰り、綾女」
「うん・・」
綾女は左近の胸に体を預け、擦り寄った。左近に甘えたかった。
「ただいま」
これでやっと、ふたりは何の隔たりもなく素直な心で触れ合うことができた。
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何度読んでも涙ぼろぼろです…ようやく幸せを掴んだ綾女。やはり結ばれるべき運命ですのね..
ありがとうございます。
書き手冥利に尽きます。
やっと自分の気持ちに気づいた綾女。左近もきっと綾女を離さないでしょう。