カララン♪
ドアのカウベルが鳴り、常連の客が顔を出した。
「あら、おはよう、綾女さん」
店主の佳代が魅惑的な微笑を向けた。綾女もにっこりと笑みを返す。
佳代は先週入籍したばかりの新婚で、綾女も招かれていた。ブーケはしっかり受け取っていた。
「昨日新婚旅行から帰ってきたんでしょ?もうお店始めているの?」
「うん。だってこうして綾女さんが来てくれるし」
綾女はカウンター席に腰掛けた。佳代がコーヒーを淹れ、綾女専用のカップに移した。
綾女は頬杖をついて、コーヒーの湯気を眺めていた。
安土の町に喫茶店を開いた、佳代と龍馬。ふたりの熱々ぶりは近所でも評判だった。人当たりもよく、開店早々から賑わった。
そこの常連、綾女は毎朝顔を出すのが習慣になっていた。
「綾女さん?」
佳代の声に我に返った綾女は、あいまいな笑みを浮かべた。
「どうしたの?元気ないけど・・」
「いえ・・」
「彼のことでしょ。最近連絡あった?」
綾女は首を振った。その表情が寂しげで、佳代は胸が痛んだ。綾女は佳代の様子に気づき、何事もないような笑顔を向けた。
「ね、旅行の話聞かせて」
小一時間喫茶店で過ごした綾女はいったん自宅に帰った。
陽光に溢れた部屋。きれいに整頓され、柔らかな雰囲気がある。そしてベッドルーム。ふたつの枕。
「もう3ヶ月か・・」
もうひとつの枕は、使われることなくそのまま置いてあった。綾女はそっとその枕を抱え、顔をうずめた。
「左近・・」
愛おしい彼の名前を呟いた。
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