やがて綾女は静かに寝息を立てていた。左近は愛おしそうに寝顔を眺めていた。
今までならとうに抱いていた。だが綾女に対してはゆっくりと愛していきたいと強く思っていた。まだ唇すら触れていないし、抱きしめてもいない。
「俺にしては、奥手だよな」
眠っている綾女に唇を重ねた。軽く触れるだけのつもりが、次第に色づく唇を左近は無性に欲しくなった。
「ん・・」
唇の愛撫で綾女は目を覚ました。
キス・・されてる・・
左近の手がバスローブの上から身体をなぞっていく。
「左近・・」
その声に左近は気づき、体を離した。
「あ、悪い・・起こしちゃったか」
綾女は左近の愛撫で身体に熱を感じていた。左近も自分を抑えられるぎりぎりのところまで来ていた。
「ううん、いいの・・・。左近、きて・・」
熱い身体を絡ませあい、綾女は痛みとともに左近を受け入れ、何度となく達し、左近の熱を吸い取った。
それから左近は綾女の部屋でともに過ごし、そして姿を消した。
「何も言わないで行っちゃったのよね」
数回しか使わなかった左近の枕。綾女はため息をついた。
「もしかして私・・・いいように利用されて、捨てられたのかしら」
積もり積もった疑念。口に出したら現実になりそうで言えなかった言葉。この部屋で過ごした時間は短かったため、左近のために買ったものは歯ブラシと枕くらいだったが、それが大きな重りとなって綾女の心にのしかかっていた。
そうか、捨てられたんだ・・私。
綾女は抱えていた左近の枕を部屋の隅に放り投げ、膝を抱えて涙を流した。
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