綾女は眠るのを嫌う。
「左近がどこかに行ってしまいそう」
「どこにも行かない。それよりも、眠らないと体が持たないぞ」
「でも…」
左近は綾女に腕枕をした。すり寄る綾女は柔らかく、猫のようだ。
「これで眠れるだろう」
「ありがとう」
左近も眠りについた。
死んだ時のことを思い出す。自分にすがって泣いている綾女。綾女に想いを残して逝きたくないと、強く思っていた。
綾女も自分に想いを残している。生きているからこそ、その想いは募り、眠れない夜を重ねている。
綾女の唇を奪ってから、綾女を何度抱きたいと思ったか。人知れず、何度己を慰めたか。綾女を庇い、そのときに綾女の気持ちを知った。お互いに想い合っていたとは…。
蓬莱洞で静かに待つ左近。男として、初めて綾女に触れた場所。ここでまた綾女と触れあえたなら、またともに生きられるかもしれない。
そして綾女は来てくれた。心身ともに極限まで疲れきっているのに、左近に声をかけて触れてくれた。左近の魂が留まれる最後の夜、綾女を抱いた。
「左近」
綾女の声とともに、涙が拭かれた。
「大丈夫、そばにいるから」
綾女の優しい声。そして綾女から唇を重ねた。
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