「左近・・本当に左近なのか?」
左近は優しげな顔で綾女を見ている。近寄ろうとする綾女を制した。
『俺に近づいてはいけない』
綾女は足を止めた。あと2、3歩踏み出せば左近に触れられる距離だった。
「どうして?」
『お前はまだ寿命を全うしていない。俺に触れてはお前も死ぬことになるからだ』
「なら、どうして姿を現したのだ。私の気持ちは知っていただろう」
左近は少し辛そうな顔をした。
『別れを・・告げに来た』
綾女は首を振った。涙が零れ落ちる。
「いや・・」
左近は生きていたときのように、その涙を拭いてあげたかった。涙が流れるままに綾女は左近を見つめる。
「私は・・左近を失ってからも左近を感じて生きてきた。それすら望めなくなるというのか」
もはや左近という支えがないままに妖魔を狩り続けることは、綾女の心が蝕まれていくことになる。
「私は、これから何を支えにすればいいのだ・・・」
『済まない・・。最後に姿を現して、お前の俺をみる表情が見たかった。けれどそれは酷なことだったな・・』
綾女は涙を拭いた。
「もはや、どの道を選んでも私は自分の人生を自分で決めるだけだ」
綾女は左近に背を向けると、着物を脱ぎだした。最後に結っていた髪を解き、軽く頭を振った。黒い髪が零れ落ちた。
- あの時代
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