上着だけを肩にかけ、綾女はゆっくりと左近に体を向けた。
『綾女・・?』
「私は左近と運命を共にしたい。だから抱いてほしい」
恥ずかしそうに頬を染めながらも、綾女はまっすぐに左近を見据えていた。
『お前も、死ぬぞ』
「左近と一緒なら構わない。それとも、私を抱きたくないのか・・?」
『ここで触れ合ったら、もう来世での巡り会いはできない』
「構わない。私は今、左近と共にいたい」
『お前は・・罪な女だ・・』
左近が綾女を抱きしめた。
『お前のこのような姿を見せられて、抱きたくないと思う男がいるものか』
「左近・・・会いたかった・・・」
懐かしい温もり、自分を抱く力強い腕。綾女は素直に左近に甘えていた。
『愛している・・』
「私も、愛している・・」
触れ合う唇。
その瞬間、綾女と左近の来世への道は絶たれた。
桜の木が揺れる。月にかかっていた雲が流れ、月光が桜に降り注いだ。
その光の先に小太刀が1本落ちている。
持ち主を失った小太刀は、その力をもすでに失い、ただそこにあるのみだった。
- あの時代
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