「ん・・」
綾女は左近の背中に擦り寄っていた。暖かい。安心できる暖かさだった。並んで寝たのは、左近を看病していた時以来だった。それ以前は、まだ信長を討ち取る前。亡き龍馬もいた頃だった。3人、時々は2人で雑魚寝をしていた。もちろん同志というだけでそれ以上の感情は持つことすら考えていなかった。
心が揺れたのは、鳳来洞での口付け。左近の熱い唇が綾女の唇を奪った。初めての経験に動揺し、思い切り張り倒したが・・・。
やはり私は女なのだ。
あの晩、左近に体を触れられ、嫌悪感どころかもっと左近が欲しいと思った。切にそう願っていた。自然と体が左近を受け入れるように変わってきたのを、綾女は感じていた。
左近が寝返りを打ち、綾女のほうを向いた。安らかな寝顔。茶色の髪が左近の頬にかかっていた。綾女はそっと頬にかかった髪をどかそうとした。
ぱしっ
綾女の手を左近がつかんだ。目を閉じたまま、綾女の手にやさしく唇を落とした。徐々に左近の手の力が抜け、また眠りに落ちていく。
そのさりげない仕草にさえ、綾女は顔を赤くしてしまった。
左近は夢を見ていた。
暗闇に舞う光。さまよっていた自分を導くかのように、現れていた。次第に人の形になり、左近を優しく抱きしめる。
左近・・生きて・・・
泣き出しそうな、優しい声。
唇に何度となく注がれる苦い味。でも生きてほしいという想いが伝わってきた。
生きなければ。
左近の涙が目尻へ流れ落ちた。優しい手がそっと涙をぬぐった。
「左近、泣いているの?」
夢の中と同じ声が聞こえ、左近はゆっくり目を開けた。その瞬間、唇が触れた。涙の跡をゆっくり触れていく。そして唇が離れた。
「あっ」
左近が見ていたことに気づき、綾女は口元を手で覆った。
綾女のひとつひとつの仕草は女を感じられる。左近はそのたびに男が疼くのを隠せなくなってきた。
- あの時代
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