綾女はそのまま布団に倒れこんだ。
「はぁ・・」
非常に疲れていた。妖刀を鞘に納めると、手首が赤くなっていることに気がついた。男が押さえ込んでいたところだ。
「左近が見たら、怒るだろうな」
案の定、夜遅く帰ってきた左近は綾女の異変を察した。
手首の赤みに口付けし、男の痕跡をなくそうとした。くすぐったくて綾女は笑いそうになったが、左近が真剣な表情なので、押し殺した。
「すまん」
左近は綾女を抱きしめた。綾女は左近を見上げた。
「謝るのは私のほうだ。心配をかけた」
左近は本当に愛おしそうに綾女を見つめた。綾女は正面から見つめられ、恥ずかしくなって目をそらし、チラッと左近を見た。その仕草がまた可愛くて、左近は綾女の額に口付けた。
綾女が欲しい・・・。
思えば、死ぬような重傷を負ってからそう思うようになっていた。目が覚めたとき、綾女は以前の綾女より左近に想いを寄せているようだった。
「左近?」
綾女が声をかけるほど、左近は綾女を見つめていたらしい。
「あ、ああ」
左近はゆっくり綾女を布団の端に寝かせた。そして空いたところに自分が滑り込んだ。
「大丈夫だ、何もしない。寝ろ」
綾女が何か言いかけたのを制して、すぐに寝てしまった。
綾女は落ち着かない。じっと左近の背中を見ていた。
広い背中。当時の男性に比べて左近はひときわ背が高く、体格もがっしりしている。それに加えて白皙な顔。他の女性からもよく声をかけられているのを何度となく綾女は目撃していた。
「本当に私でよいのか・・?」
自分がどんなに左近に惚れられているか、いまいち自覚が足りない綾女は首をかしげていた。
- あの時代
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