やがて綾女は、うちを出て一人暮らしをはじめた。
一度に色々なことを経験したせいか、綾女はすっかり大人びて憂いのある女性に変貌していた。
はじめにうちに来た時の怯えた少女は影をひそめてしまった。
「色々お世話になりました」
「ずっとここにいていいのよ」
佳代が引き留める。だが綾女は首を振った。
「これ以上ご迷惑をおかけするのは・・。今まで本当にありがとうございました」
深々と頭を下げ、出て行く綾女。
「綾女」
俺は綾女を追った。今追わなければ儚く消えそうに見えたからだ。
振り向いた綾女の髪が、秋の風に揺れている。あまりにも寂しげで俺は綾女を抱きしめていた。
この身から離したくない・・・。
綾女は黙って俺のなすがままになっていた。離れようともせず、擦り寄ることもなく、ただ身体を俺に預けているだけだった。
「ありがとう」
俺の胸元から綾女の声がした。やっと体を離すと、綾女はまっすぐ俺を見つめていた。
すべてを受け入れ、落ち着いた瞳だった。
そのまま綾女は俺から離れ、自分の道を歩き出した。
・・それ以来、俺は綾女に会うことはなかった。
- 現代版
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