綾女の予想は、悲しいほど当たっていた。
「どいて・・どいてください」
人ごみをかき分けた綾女が目にしたのは、燃え上がる我が家だった。
「お・・お父さん!お父さん!」
火の家に飛び込もうとする綾女はこの細い体のどこにあるかと疑うような強い力で、俺の腕を振りほどこうとした。
「離して!」
「お前が行ってどうする!」
「あの中にお父さんがいるのよ!今なら間に合うはずよ!行かせて!」
綾女の悲痛な声は俺にはとても苦しいものだった。だがこの手を離すわけにはいかない。やがて綾女は動きを止め、崩れ落ちていく我が家を見つめていた。
綾女が生まれて育った家。
かつては親子3人で仲睦まじく暮らしていた時期もあっただろう。
思い出の詰まった家が目の前で崩れ、消えていく。綾女は涙ひとつ流さずにただ見つめていた。
鎮火後、現場から男性の遺体が発見された。すすで真っ黒になっていたが服が焦げる程度だった。
「お父さんは、火事で死んだのではなかったんです。火事になる数時間前に、吐血してそれが喉で詰まって窒息死しています。アルコール濃度が高かったので、おそらく泥酔している時に食道動脈瘤が破裂したんでしょうね」
綾女は冷静に説明を聞いていた。
「火事の原因はなんだったんですか」
「ペットボトルのお酒です」
「え?」
「ペットボトルに入っていたお酒が、直射日光で虫眼鏡のような働きをし、集光して熱が高まり、発火。その線が一番可能性が高いと思います」
「まさか・・そんな偶然で・・?」
「あなたが家にいたときはきちんと戸締りをしていたんですね?」
「ええ、道路から割と見える家なのでカーテンをいつも引いていました。でも父はお酒を飲んで暑いからとすぐにカーテンを開けてしまって・・・」
「折りしも昨日は梅雨明けして晴天でしたから・・」
綾女はうなだれた。
- 現代版
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