俺はベッドに横になったまま眠れずにいた。
昨日まで何も関知していなかった綾女のことが今日になってクローズアップしている。
「話を聞いてくれそうだったから」
だから俺に助けを求めたのか。そういえばバイト先でも綾女に声をかけるのは俺の他にはいなかった。いつも人目を避けるようにひっそりと言われたことだけをこなしていた。
2年も実の父親に暴力を振るわれていれば、卑屈にもなってしまうんだろう。
「俺に声をかけてくれてよかった・・」
心からそう思った。
深夜。
隣から人の声がしてきた。途切れ途切れに悲鳴のようなものが混ざる。
「綾女?」
一瞬佳代を起こそうかと思ったが、何かあってはいけないとそっと綾女を覗いた。
苦痛の表情が常夜灯のもと浮かび上がる。
「ごめんなさい・・だからお父さん、やめて」
「いや・・」
綾女が飛び起きた。俺はいたたまれなくなって声をかけた。
「大丈夫か?」
その声に綾女ははっとしたように俺を見、部屋を見回した。
「あ・・ああ・・そうだった・・ごめんね、起こしちゃったね」
安堵と疲労と悲しみが混ざった声で綾女は言った。
「何かあったら、俺を呼べよ」
「うん、ありがとう」
無理に笑顔を作って綾女は布団にもぐった。俺は自分の部屋に戻り、綾女の心の傷の深さを思った。
- 現代版
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