「炎情」は、妖刀伝二次小説サイトです。 綾女と左近の、本編でのあの別れに納得できなくて、色々な妄想を膨らませ、ちりばめています。

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芽生え2

週に一度の割合で綾女は買い物をする。あれから左近には会っていないが、サイトの小説は少しずつ更新されていた。
季節は移り、梅雨に入った。
「雨かぁ、あまり買い物できないのよね…」
今回は会えるかな、来週はどうだろう。たまたま立ち寄っただけで近くに住んでいるのではないかもしれない。スーパーに入ると、いつも雑誌コーナーに目をやってしまう。
いつもなら見るだけだが、今日は立ち寄ってみた。10冊くらいしかない雑誌コーナー。何軒回っても見つからなかった雑誌、それを手に取っていた人。
「あれ、あの時の」
綾女が振り返ると、左近がいた。
「こんにちは。あの時はありがとうございました」
左近の顔が少し赤くなった。
「いや、あれは…」
「あの、妖刀伝を書かれた疾風左近さんですか」
「あ、はい」
綾女の顔が輝いた。左近はドキリとした。
「春に本を見つけて、全巻読みました。サイトも見ています」
「ありがとう…」
左近はただ綾女を見つめていた。なぜかとても懐かしい。綾女は射すくめられたように動けなかった。ただお互いに見つめあう。懐かしさと、別の感情が芽生えようとしていた。
「私、買い物があるので…」
「いつもここで?」
「はい、週末にまとめて」
左近は大きなエコバッグを見た。
「たいしたことないですよ。いつものことです」
綾女は会釈をした。これ以上いたら気持ちが落ち着かなくなりそうだった。左近は綾女から目を離せなかった。
買い物を済ませ、ほぼ習慣になってしまった…雑誌コーナーを見る。既に左近はいない。
「また、会えるかな」
少しだけ期待しながら、雨の中帰宅した。

毎週同じような時間に買い物に行く。左近には会えないまま、また数ヶ月が過ぎた。サイトは2、3週間の更新頻度で新しい話がアップされていた。内容は少し変化が現れていた。ほのかに甘い恋の風味。左近の心情が現れているのか、綾女は興味をもった。
今まで気になっていたが、サイトにメールフォームがあったので、思いきって感想を送ってみた。送るまで3時間ほど書いては悩み、消しては悩み、当たり障りのない文になってしまったが、最後に1行素直な思いを乗せた。
“また会いたいです”
送ってから綾女は両手で顔を覆い、耳まで真っ赤になってしまった。

次の買い物の日。小春日和。綾女はいつもの時間にスーパーを訪れた。入り口に左近が立っている。
「えっ」
綾女は立ち止まってしまった。左近が見つけてくれ、軽く会釈をした。
「こんにちは」
ギクシャクと近づき、挨拶をする。
「久しぶりですね。メールありがとう」
綾女の顔に火がつく。
「嬉しかった」
顔をあげると、左近も照れくさそうだ。
「いえ。雑誌にも載ったから、メールはたくさん来るでしょう。忙しいなか読んでくださって、私も嬉しいです」
「名前、香澄綾女さん?」
「はい。どうして私の名前?あ、あの小説の綾女と同じ…」
「俺の本名は日向左近。疾風はあだ名なんだ。本名で世に出るのは少し恥ずかしくてね」
「でもどうして私の名前を?」
左近は少し困った顔になった。
「訳を話すと長くなるし、少しオカルトっぽくなるから、いずれ話していくよ」
「いずれ…」
左近の電話が鳴った。保留にして振り向く。
「俺もまた会いたい。いいかな?」
「はい」
「これ、よかったら。じゃあまた」
左近は綾女に名刺を渡して、去っていった。綾女は左近が見えなくなるまで見送った。
名刺にはペンネームとサイトのアドレスが印刷されている。手書きで携帯の番号が書かれていた。
「夢みたい、嬉しい」
買い物を済ませて帰宅する。さっそく電話番号を登録すると、LINEにも登録された。
「やっているんだ…」
試しに入力してみた。
『綾女です。今日はありがとうございました』
すぐに既読がついた。
『左近です。登録しました。よろしくお願いします』
綾女は嬉しくてニコニコしながら、料理をいくつも作り置きした。

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