「炎情」は、妖刀伝二次小説サイトです。 綾女と左近の、本編でのあの別れに納得できなくて、色々な妄想を膨らませ、ちりばめています。

  1. 現代版
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芽生え1

その悲恋を知ったのは、18の時。
もともと戦国時代に興味があり、立ち寄った本屋で手に取った1冊の本が出会いだった。
「妖刀伝?」
歴史に絡んだ伝奇小説かと、破獄の章、鬼哭の章、炎情の章の全巻を買い求めた。奇しくもヒロインは同じ名前。
読み進めるうちに、情景が記憶のようにありありと浮かび、最期の別れでは、涙が止まらなかった。
「左近」
名を口にすると、小説の中の人物でしかないのに、思いが抑えきれないほどだった。
エピローグでは、10年後の話が書かれており、既に左近が亡くなっていることがはっきりと示されていた。綾女の心の拠りどころすら、薄れゆく。
「寂しい…」
綾女は部屋が薄暗くなってきたことにやっと気づいた。
著者は疾風左近。巻末にサイトのURLが載っていた。

そのままスマホで検索したかったが、綾女はいつも通り家のことをこなした。一人暮らしだから、やる人がいない。
「明日は買い物して、掃除して、ご飯を作り置きしないと」
食事をし、お風呂に入り、ひと息つく。時計は20時を示していた。
スマホで検索する。
「ああ、これかしら」
妖刀伝で検索すると、すぐに出てきた。URLも合っている。出版している本の内容がほぼそのまま載っており、その他にもいくつか短編小説があった。長編小説とは別の視点で書かれてあり、中にはクスッと笑える内容もあった。
「書いている人はどんな人なんだろう」
綾女は興味をもち、プロフィールを探したが、名前だけしか見つけられなかった。本の巻末には、石川県出身であること、サイトを運営していることしか載っていなかった。出版社は近江八幡にある。
「えっ、隣町じゃない。うーん、すごく気になる」
本は2年前から毎年1冊ずつ出ている。他にも関連の書籍がないか調べると、明日発売の歴史の雑誌にインタビュー記事が載ることを知った。

翌日。本屋を探しながら何軒も回った。マイナーな雑誌のためか、なかなか見つけられない。今日は早起きして掃除をしたが、買い物と食事の作り置きをしなければならない。
「あー、見つからないなぁ。もうお昼だよ…」
天気は下り坂で、夕方から雨の予報が出ている。いったん本屋は諦め、スーパーに買い物に入った。
あらかじめメモしていた物を手早くかごに入れていく。支払いをして袋に入れながら、ふと雑誌コーナーがあったことを思い出した。
売り場の衝立がわりのように、小さなものだが、そこに目を向けると背の高い男性が雑誌に手を伸ばしていた。
「あ!」
うっかり大きい声を出しそうになった。男性が見ている雑誌は探していた雑誌。ここから見る限り、その1冊だけだ。手元で買ったものを袋に入れながら、綾女は男性が買ってしまうかヒヤヒヤしながら見ていた。
袋に入れ終え、雑誌コーナーで本を探すふりをしながら男性の動きに注目する。雑誌の中のインタビュー記事に写真がついているのが見えた。
「写真付きだ、わぁ~」
男性は雑誌を棚に戻した。
「あ、買えるかな」
綾女が手を伸ばそうとしたとき、男性は雑誌を再度手に取り、レジに向かおうとした。
「あっ」
綾女は思わず声をあげてしまい、その男性は振り向いた。綾女を見て雑誌を見る。
「あ、これ」
少し笑って男性は雑誌を綾女に差し出した。
「え、あの、いいです、先にそちらが」
綾女は手を振って断った。
「いいですよ、見ていただけだからどうぞ」
「あ、ありがとうございます…」
綾女は雑誌を受け取った。男性は軽く会釈をしてスーパーを出ていった。
「優しい人だなあ。あれ?」
綾女は雑誌を開いた。インタビュー記事の写真は、今の男性のようだ。
「うそっ、同じ人じゃないっ」
急いでスーパーを出て男性の姿を探す。既に姿はない。ポツポツと雨が降り始め、綾女は急いで帰宅した。

「ちょっと濡れちゃったな」
冷蔵庫に買ってきたものをしまい、調理に取りかかる。綾女は大学生で平日はバイトもしているため毎日忙しく、作り置きして時間を作っている。
夕方にやっと終わり、食事とお風呂を済ませて雑誌を開いた。
長めの茶色の髪。端正な顔立ち。インタビュアーは雑誌編集長の森という青年。並んで写真に写っており、どちらもイケメン。インタビューの内容は、小説の背景について。
綾女は何度も丁寧に読んだ。

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