「炎情」は、妖刀伝二次小説サイトです。 綾女と左近の、本編でのあの別れに納得できなくて、色々な妄想を膨らませ、ちりばめています。

  1. 現代版
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芽生え3

お互いに連絡先を知ったものの、それ以降のやり取りはしていない。
季節は晩秋にさしかかり、紅葉の色が濃くなってきた。
綾女は変わらず、毎週買い物に行っているが、左近には会わない。
アルバイトも変わらず、大学も変わらず、平穏な日が続いていた。
天気のよい日、思い立って綾女は安土山を訪れた。桜の時期は賑わいを見せていたが、今は静かだ。ベンチに腰かけて空を見上げた。
カシャカシャとシャッターを切る音が聞こえ、そちらを見ると若い女性がカメラを向けていた。
「いきなりごめんなさい。あまりにもきれいなので、撮らせてもらいました」
「え、あ、でも」
「私、木暮桔梗といいます。フォトグラファーなんです」
「あ、知っています。風景を主に撮られていて。写真集を見たことがあります」
桔梗の顔が輝いた。
「ありがとうございますっ。普段は風景しか撮らないんですが、紅葉と空気と溶け合って憂いのあるきれいな人がいらしたから、ついカメラに収めたくなってしまったんです」
「あの、その写真は発表するんですか」
「そうですよね、気になりますよね…。私としては世に出したいのですが」
綾女は考えてしまった。そしてプライバシーを明かさないという約束で承諾した。

翌週、左近が載っていた雑誌の表紙に綾女が載った。少女から女性へと移り変わる憂いを秘めた美少女。まっすぐ空を見上げる瞳は揺らいで潤んでいるようにも見える。風景と馴染んで美しい。
マイナーな雑誌だと思っていたが、大学やバイト先でも声をかけられることが増えた。
『久しぶり。雑誌の表紙にあなたが載っていたので買いました』
左近から連絡が入った。
『明日、いつものスーパーで会えますか』
左近から初めてのお誘いに、綾女は赤くなった。
翌日はあいにくの雨。綾女は出掛けた。スーパーの入り口にはおらず、雑誌コーナーにも姿はなかった。1周してみたが、やはりいない。
「どうしよう、買い物したいけれど」
スマホが震え、見ると左近からメッセージが入っていた。
『道が混んでいて遅れてしまいました。これから』
そこで切れている。
「ごめん!」
綾女のそばに左近が来た。スマホを見て、
「ああ、行った方が早いから」
と、笑った。急いで来たわりに息が切れていない。
「車ですか?」
「うん、まあ」
「遠い所からわざわざ…すみません」
左近は笑って首を振った。
「買い物があるんでしょう?ここにいるから」
「はい」
綾女はいつも以上にてきぱきと買い物を済ませた。袋詰めも手慣れたものだ。左近は感心して眺めていた。
「お待たせしました」
自分を見つけて駆け寄る綾女に、左近は胸がざわついた。
「車で送るよ」
「そんな、近くだからいいです」
「雨だし、買い物の量かなりあるから」
今日は米も買ってしまった。綾女は迷ったが、左近の好意に甘えることにした。
「本当にすみません。今日に限ってお米が切れてしまって」
「3食きちんと作っているんだね。すごいな」
「そんなことありません。あ、そこのアパートです」
車だと数分で着いた。左近も荷物を持って来てくれた。綾女は迷ったが声をかけてみる。
「あの、お礼というか、もしお時間があればお茶いかがですか」
左近は綾女の迷いを察していた。
「いや、誘っておいてなんだけど、顔が見たかったから…」
「あ…」
「また、会えるかな」
「はい」
「そうだ、あの雑誌。とてもきれいだよ」
綾女は赤くなった。左近のことを思っていたときに撮られた写真。
「ありがとう…」
左近は笑って帰っていった。窓から左近を見送る綾女。
「好き…かも」
言ってしまって、また顔が火照るのだった。

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