クリスマスが近くなってきた。
綾女がアルバイトをしている洋菓子店では、人通りが多くなる夕方に、サンタの服を着て店頭販売をする。
クリスマスイブは、綾女が担当になった。
「夜は冷えるから、あったかくしなきゃ」
ヒートテックのインナーを重ね着し、足下は靴用カイロを入れ、背中や腰にカイロを貼りつけた。サンタの服は温かそうにみえるが、わりと風を通す。
「寒い~」
綾女が店頭に立つと、すぐに賑わいを見せた。寒さに震える余裕もなく、次々と接客をしていく。忙しいのに綾女は笑顔を絶やさない。気づくとクリスマスケーキは完売していた。
「綾女」
片付け中の綾女に左近が声をかけた。かわいらしいサンタ姿の綾女が振り向く。
「もう売り切れか。早いな」
「イブだもん。昨日も売り切れるのが早かったみたいよ」
かわいらしい笑顔を左近に向けた。先ほどの接客の笑顔よりもかわいい。お店の中を覗き、混んでいるのを確認している。
「戻るね」
「あと30分か。定時で上がれるんだろ?」
「うん。多分この様子なら」
「じゃあ、一緒に帰ろう。前のコンビニで待ってる」
「うん」
少し顔を赤らめて綾女は頷いた。
約束の時間を少し過ぎて、綾女がお店から出てきた。左近に気づき、手を振る。手には取り置いていたケーキを持っている。
「帰ろうか」
綾女の手が左近の指にからめられる。綾女は恥ずかしげに左近を見上げた。
「左近の手、あったかい」
「綾女は冷たい手だな。働いてきた手だ」
2人が出会ったスーパーに寄り、買い物をする。そのまま左近の部屋に行く。
「お邪魔しまーす」
初めての左近の部屋。1人で住むには広い部屋だ。普段から掃除を丁寧にしているのか、慌てて片付けた形跡はない。料理はほぼ作られており、左近はオーブンにチキンを入れた。
「綾女、荷物はこっちに置けるぞ」
「あ、はい」
荷物。そう、今夜は左近とともに過ごすのだ。
ケーキを冷蔵庫にしまい、テーブルをセッティングする。チキンが焼き上がるまでまだ時間がある。
「綾女」
左近が綾女の手を取り、ソファーに導く。並んで腰を掛け見つめあった。
「サンタの服、かわいかったな」
スカートではなかったが、よく似合っていた。綾女は何を着てもかわいく、着こなしている。
「そう?ありがと」
左近とは手を繋いだだけの仲であり、こんなに近くで見つめあうのも慣れていない。まして、こうして肩を抱き寄せられて…。
「ん…」
唇が重なる。熱くて溶けそうな甘さ。綾女の瞳がとろんと潤む。
少し左近が離れ、角度を変えてまた綾女の唇を味わう。二度三度と繰り返すうちに、綾女の体から力が抜けそうになってきた。
オーブンが鳴り、チキンが焼き上がった。左近は綾女の額に軽くキスをして、キッチンに立った。
「は…あ」
綾女はソファーにもたれ、呼吸を整えた。身体中の血が熱い。数回肩で大きく呼吸をし、やっと落ち着いた。ほてった頬を冷ますため洗面所に行き、鏡を見る。
「私…」
潤んだ瞳、紅潮した頬、色づいた唇。今までに見たことがない色気のある顔をしていた。
「やだ、私ったら」
左近はこんな自分の顔を間近で見ていた。どう思っただろうか。綾女は恥ずかしくなった。
左近はキッチンでシチューを温めながら、綾女の顔を思い出していた。唇を重ねるごとに色気が増していく。かわいくて清純なイメージだが、あんなにも女らしく変わる。今まで経験はなさそうだ。
左近は人並みかそれよりも経験はある。じっくりと情を深めたいと思える相手はいなくはなかったが、綾女ほど心惹かれる女性は初めてだった。
綾女が戻ってきた。
「何か手伝う?」
だいぶ落ち着いたとはいえ、艶が残る声。
「そうだな、冷蔵庫からサラダを出してくれ」
「はい」
食事がテーブルに並べられ、向かい合って座った。すべて左近の手作り。
「すごいね。こんなにたくさん」
「そうか?ふだんから作っているし、大したことはない」
左近はシャンパンを綾女のグラスに注いだ。キラキラと泡が輝く。
「まだ私飲めないけど」
「外に出るわけじゃないから、少しくらいなら大丈夫」
綾女は少し口に含んだ。甘い。
「おいしい」
にっこりと笑う綾女はやはりかわいい。左近も微笑んだ。
食後は綾女がすすんで洗い物をした。左近が食器をしまい、片付けはすぐに終わった。
「お風呂、先にいいぞ」
「ありがとう」
明るい浴室。綾女はお気に入りのシャンプーを持ってきており、優しい香りが浴室に広がる。お揃いのボディーシャンプーを泡立てて体を洗う。髪をまとめてタオルでくるみ、ゆっくりと浴槽に浸かった。
左近と出会って2年弱。はじめの1年はほとんど進展がなく、今年の秋になって会う頻度が増えた。想いを大切に育んできた。
「今日は初めて尽くしだわ」
手を繋ぎ、肩を抱かれ、甘いキスを交わし、そしてお泊まり。
綾女は髪を乾かしながら鏡に映る自分を見た。バイト中は薄く化粧をしており、すべて落としたが、素肌でも紅をさしたようにきれいだ。
今日のために買った、大人っぽいパジャマの上に上着を羽織る。
「お風呂ありがとう」
「ああ。俺も入ってくる」
綾女はいつも髪を結っている。今は下ろして左近を待つ。背中まで伸びた艶のある黒髪。
脱衣室で、浴室で、左近は綾女の残り香を感じる。優しく甘い香り。たまらなく抱きしめたくなる。左近は深呼吸をして気持ちを落ち着かせた。
「綾女。ケーキを食べないか」
「そうね、クリスマスだもの。紅茶を持ってきたの。いれるわ」
カップにお湯を張り、温める。その間に紅茶の茶葉をポットに入れ、抽出を待つ。
「おいしそうなケーキだな」
「そうでしょ。すぐに売り切れちゃうのよ。だから予約しておいたの」
小さめのホールケーキ。左近が切り分け、綾女は紅茶をカップに注いだ。
ソファーに腰掛け、ふたりで食べる。
「おいしいな」
「うん」
「紅茶もうまい」
「お気に入りなの」
紅茶の2杯目はブランデーを少し入れる。体が温まる。並んで座りどちらからともなく手を繋ぐ。綾女の指の間に左近の指が深く入り、軽く握る。綾女はそっと左近にもたれ、左近は肩を抱き寄せた。綾女の髪を撫でる。綾女の瞳が潤む。たまらず左近は綾女を抱きしめ、先ほどよりも甘く熱いキスをした。
「ん、ふ…」
苦しくて怖くて、綾女は左近の胸を押す。だがからめられ、ますます激しく唇を奪われた。そのままソファに押し倒される。
「いや…」
綾女の手が左近の肩を押し返すが、手首をつかまれ、頭の上にあげられてしまう。
「左近、待って…」
「綾女」
細かく震え、左近を見上げる。左近は我に返った。
「そうだっな。すまん」
「いいの、ただ、ちょっと怖かったの」
綾女の首筋が汗ばんでいる。左近はそっと舐めあげた。
「あっ」
甘い声とともに綾女がひくんと動いた。左近は綾女を抱き上げ、暖かくしていた寝室に運んだ。
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