綾女は胸元を押さえながら自室に戻った。その直前、龍馬がその姿を見る。
「綾之介殿・・?」
そっと部屋の前まで行くと、声を抑えているが泣き声がかすかに聞こえてきた。
「綾之介殿、どうしたんだ?」
「なんでもない。しばらく・・ひとりにさせてほしい」
涙声が返ってきた。
龍馬は不審に思いながら、綾女が左近の帰りを待っていたことを思い出した。
「左近、いるか」
道場に行くと、左近が木刀を磨いていた。
「綾之介殿の様子がおかしい。お前、さっきまで一緒にいただろう」
ふと床を見ると、綾女の服の一部と見られる小さな布が落ちている。
「これは・・。左近、何をした」
「手合わせをしていた。奴が頼んできたことだ」
「それだけか?」
左近は龍馬を見た。
「なんだ?」
「綾之介殿が泣いていたぞ。何かしたのか」
左近はため息をついた。龍馬はそんな左近に腹が立った。胸倉をつかみあげる。
「まさかお前、ここで綾之介殿を無理やり・・・」
「手を離せ、龍馬」
「あの子は、女なんだぞ、それを知っての狼藉か」
龍馬は左近を投げ飛ばした。難なく着地する左近。
「お前も知っていたのか」
「まぁな。女の目は騙せても、男の目までは騙しきれないだろう」
2人は揃ってため息をついた。
- あの時代
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