いさぎよく髪を切った綾女。
自分が過度に動きすぎていることは重々承知していることだった。それでも何かに突き動かされるように動かざるを得なかった。
里を失った人々の思いが、綾女の細い双肩にかかっているように感じていた。
「いまさら女になるなんて・・・無理なことなのに」
軽くなった髪をそっと撫でながら、綾女は寂しげに呟いた。
龍馬と左近は綾女の姿を見て驚いた。左近は口も利けないくらい綾女を見つめていた。
「頭が重いので、切ったまでだ。そんなに驚くな」
綾女はなんでもないように振舞った。左近の視線が胸に痛かった。
あれほど怖い目にあったにもかかわらず、綾女は気がつくと左近を目で追っている。時々目線が合うが、綾女は顔をそむけ、左近と口を利こうとしなかった。
それから半月ばかりたったころ、綾女は偵察を終えて戻ってきた。
龍馬へ報告に行った帰り、縁側を通ると左近に会った。
「あ・・」
きびすを返そうとすると左近に呼び止められた。
「待て、綾女」
綾女は左近に背を向けたまま立ち止まった。何かあればすぐに逃げられるように全身の感覚を研ぎ澄ませた。
左近の手が髪に触れた。うなじにも触れる。綾女はすぐに身を引いた。
何も言わず左近を見る。
「俺のせいか?」
問いかける左近に対し綾女は何も答えずその場を立ち去った。
左近の指先には、綾女の髪の感触がそのまま残っていた。うなじの温かさも。
左近の中に感情が生まれていた。
それは初めて感じたものだった。
- あの時代
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