「炎情」は、妖刀伝二次小説サイトです。 綾女と左近の、本編でのあの別れに納得できなくて、色々な妄想を膨らませ、ちりばめています。

  1. あの時代
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夫婦になるまで2

左近が目覚めると、日はずいぶん高く上がっているようだった。
「今のところ、あやかしの気配はないが・・・」
「今のうちに少し動いておくか」
2人はさらに山中に分け入った。

どのくらい歩いたか、長い日がようやく傾き始めたころ、小さい里に出た。家が10軒あるかないか、どの家からも炊事の煙が上がっている。
「あれ、あんたたち、怪我してんじゃないか」
恰幅のよい女性が声をかけてきた。確かに自分たちの姿はボロボロだ。左近は背中や脇に怪我をしている。
「ちょっと、おじちゃんを呼んどいで」
そばにいた子供に指図して、女性は2人に向き直った。女性の声で、家から人が数人出てきて2人を囲った。
「あんた、ひどい怪我だね、どこから来たの」
「安土です」
「ああ、ああ、そりゃー」
呼ばれてきたおじちゃんが大きくうなずいた。
「今朝早くから煙がすごくてよ、戦でもあったかと思っていたんだよ、大変だったねぇ。ああ、私はここの長をしているんだ。傷が癒えるまでここにいるといい」
「ご親切にありがとうございます」
綾女が丁寧にお礼を言うと、女性が綾女をじっと見た。
「あんたたち、夫婦?こんなきれいなお嫁さんでいいねぇ~」
「え、あ、その・・・」
慌てる綾女に女性は目配せをする。綾女には意味がわからない。

里の端に小さな空き家があり、そこを貸してくれるという。少し行けば自然に湯が沸いている場所がある。
左近は傷を見てもらい、手当てを受けた。各家から少しずつ食事を集めて、2人に振舞ってくれた。
「左近、湯を汲んできたから、体を拭け」
「すまぬな」
手ぬぐいを絞って左近は体を拭いていく。細く見えるが、脱ぐと意外と筋骨たくましい。綾女は外にいたが、左近に呼ばれた。
「すまぬが、背中を拭いてくれないか」
綾女は片手をそっと左近の肩に置き、ゆっくりと拭きはじめた。拭き終わり、着替えを肩にかけてやると左近が振り向いた。綾女が置いた手に自分の手を重ねる。そのまま見つめあうが、綾女が目をそらせた。
「私は、湯に入ってくるから」
湯桶を片付けて綾女は家を出た。

ざぶ・・・
里の共同の湯なのだろう。手入れされていて湯垢はついていない。綾女は湯の中に身をくぐらせ、体のほこりを洗い流した。
小さいかすり傷が数ヶ所、湯にしみる。けれど左近に比べたらたいしたことはない。
湯から上がって家に戻ると、敷布の上で左近が月を見上げていた。
「昨日とはまるで違うな。ひとつ間違っていたら、今の俺はいなかっただろう」
鬼平次の槍は左近のわき腹をかすめた。まともに当たっていたら貫かれて息絶えていたに違いない。かすめたとは言っても妖気を帯びている刃はダメージが大きかった。
「綾女とも、夫婦となる約束を果たせなかったかもしれない」
「え」
左近は綾女のそばに座り、見つめた。正座でカチコチに固まっている綾女にそっと唇を重ねる。結い上げた髪を解く。
「でも、こうして生き延びた。俺は嬉しいぞ」
本当に嬉しそうに左近は微笑んだ。いつも皮肉っぽい顔か怒ったような顔しか見てこなかった綾女は驚いた。
「左近、そんな顔もできるんだな」
綾女も微笑んだ。

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