ぐっすりと眠った2人。
翌日は雨だった。こんな日は外での作業ができない。
「薬草は雨がやんだら採りに行ったらどうだ」
「そうするしかないか」
左近から少し離れて綾女が空を見上げている。着物のすそが少しはだけ、白いふくらはぎが見える。
「静かだな・・・」
左近の声かけに、びくっと肩を震わせる。
「どうした」
「いえ、思い出した・・・」
安土の戦いで左近は出血が多く、一時は意識を失った。その間際に言った言葉だった。
「本当にあの時は、どうなるかと思った」
左近に向けた背中が小さく震えている。綾女を後ろから抱きしめる。
「俺はここにいる。もう大丈夫だ」
「うん」
夕べ、左近の肌に触れた時、あまりにも傷が多いことに綾女は驚いた。特にわき腹は大きく引き攣れていた。普段は髪に隠れているが、眉間にも三日月のような傷跡がある。
少し左近の体温が上がった気がした。綾女の結い上げた髪を解こうと手が伸びる。
トントン
扉を叩く音がした。出てみると弥生だった。
「これね、作ってみたの。よかったら食べて。お邪魔様」
綾女の首筋をチラッと見て、何か察したようににニコニコと笑い、器を押し付けている。
「いつもありがとうございます」
「いいのいいの、じゃ」
器を見てみると、おいしそうな煮物が入っていた。
「いつもありがたいな。それにしても、首を見ていたけれどなんだろう」
鏡をのぞくと首筋に二ヶ所赤い跡がある。
「虫?それにしては痒くないし。左近、これ」
「ん?」
襟をグッと引っ張って跡を見せる綾女。左近は笑いそうになったがこらえた。
「それはだな、こうして・・・俺がつけた」
跡を舌でぬるりと舐める。綾女は思い出して顔を真っ赤にした。
「ああ、そうか、だから弥生さん気づいたんだ、わかったから左近、もうやめろ、くすぐったい」
「今からもっとつけようか」
「だめ!」
まじめな綾女に耐え切れず、左近は大笑いした。
この記事へのコメントはありません。