夕暮れになって綾女は離れへ戻った。
左近はまだ戻っていなかった。
「左近…」
縁側に腰をかける。
自分は色々な人に助けられてきた。
何不自由なく愛情いっぱいで育てられ、忍びの才があったというだけで重宝されていた。祝言の前夜に里が壊滅したときも、兄は身を挺して逃がしてくれた。それから自分は感情が向くままに障壁となる妖魔を断ち切ってきた。自分と出会った人々は常に自分を命と引き換えに守ってくれ、笑顔で死んでいった。左近も…本来ならすでに生きてはいない人も、我欲のままに運命を狂わせている。
「私には、いつか天罰が下るであろうな」
薄く笑った。
左近が戻ると、部屋に綾女はいなかった。
湯を覗くと、ちょうど服を脱いでいるところだった。
さらしを解いていく姿は官能的だったが、綾女はふとため息をついた。
「すっかり苦しくなってしまった。さらしをもっと長くしないと納まらぬな」
湯にゆっくり浸かる。
「ふうー。今宵はゆっくりと眠りたいものだ…。でも」
両の手で乳房を持ち上げる。
「無理・・かもしれぬな」
表情は髪に隠れて見えなかったが、諦めに似た吐息が聞こえてきた。
左近はそっと部屋に戻った。
「今宵はゆっくり寝かせてやろう」
綾女は着替えながら気配を探していた。
「おかしい、左近の奴覗きに来ていない」
- あの時代
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