どれくらい気を失っていたのか。
まだ重い頭を抱えながら、綾女は目を開けた。目の前には着ていたはずの衣服が広げられ、乾かされている。
「え?」
綾女は自分の体を見下ろすと、男物の服がかけられているだけだった。その下は、何もつけていなかった。動こうとして、体も重いことに気がつく。
「熱があるんだ、おとなしく寝ていた方がいい」
焚き火の向こうからさっきの男が現れた。綾女はどきんとして、肩から滑り落ちそうになった服を押さえた。
「左近、といったな。すまない」
左近は黙って薬湯を作り、綾女に差し出した。綾女は胸元を押さえながら起き上がった。ほどいた髪が肩口からこぼれ、まことに色っぽい。
「ん」
綾女は顔をしかめた。自分でも薬を調合するが、こんな味ではない。
「わかったか。実は毒が入っている」
綾女は思わずむせこみそうになった。目に涙を溜め、左近を睨みつける。白湯も飲み干し、綾女は一息ついた。
「たちの悪い冗談は言うな」
左近はふっと笑顔になった。温かい、優しい笑顔。そして慈しむ笑顔。思わず綾女は左近の顔に手を伸ばした。触れたい、と思った。
だが猛烈な睡魔が襲い、綾女は左近の腕の中に体を埋めた。
「そう、もっと休め」
左近は優しく語りかけた。
- あの時代
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