綾女が次に目覚めると、体も頭もすっかり楽になっていた。
あの薬湯のまずさが効を奏したらしい。
焚き火の向こうで背中を向けて寝ている左近。その近くに綾女の衣服があった。
綾女は素肌の上に掛け物だけ羽織り、そっと衣服に近づいた。左近の寝顔が間近に見える。
整った顔立ち。意志の強い眉、長い睫、引き結ばれた口。そして・・・右瞼の傷。
その瞬間、綾女は左近に組み伏せられていた。着物は一部はだけ、きれいな白い足が見えていた。
「あ・・」
「なんだ。着替えをとりに来たのか」
「そうだ。手を離せ」
左近は面白くなさそうにまた体を横たえた。綾女は動悸の音が左近に聞こえてしまうのではないかと思うほど、動揺していた。
着替えながら自分の体を見る。すっかり女性らしい曲線を描く身体。そういえば、濡れた服を脱がせたのは左近だった。
綾女は恥ずかしそうに頬を染めた。
以前の自分はどうだったのだろう。
少なくとも、左近が思いを寄せていたことには間違いはない。それに対し、自分は・・・?
思い出そうとするがそれらしき記憶はどこにもない。頭痛すら起きない。
火照った顔を冷やすため、綾女は外に出た。
秋の冷たい風が心地よい。そろそろ夜明け、東の空にはほんのりと明るさが増してきていた。
あたりが明るくなる頃、朝日が照らし始めた先には、ふたりがいた。
見つめあい、微笑みあう。
やがてふたりは、洞窟を後にし、ともに歩み始めた。
行き先は誰も知らない。
- あの時代
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