あの夏に出会ってから、どれくらいの時が流れたのだろうか。
すっかり冷たくなった川の水をすくい、そのきらめきがすっかり穏やかなものに変わっているのを見て、左近は思い返した。
あの少女と出会ったとき、この川の水は夏の陽射しを受けてギラギラと輝いていたはずだった。
そっと右目に手をやる。
あの壮絶な戦いの中、負傷した右目。失明したわけではない。傷も癒えて、痕もかなり薄くなっている。
ただ・・右目を開けると、あの少女の顔が見えてしまう気がした。
すでにそこにはいないのに。
薬に頼らざるを得なかった少女。その作用は凄まじく、少女の命を見る見るうちに削り取っていった。
だから渾身の力を振り絞った少女は、ばたりと倒れた。
「愛している」
深く心の内で、左近は少女に告げた。初めて思うままに抱きしめた。
少女の返事はなかった。
「ふ、俺もずいぶん感傷に浸るようになったものだ」
ひとりごちて、左近は立ち上がった。木漏れ日が左近の髪を明るく照らし出す。やがて太刀を背負い直し、左近はその場を去った。
しばらくして、外套をまとった小柄な人物が川辺に立った。同じように水をすくい、一口、二口飲んでいる。
風に頭巾が肩に落ち、豊かな黒髪が日に照らされる。そして左近が去った方向へ姿を消した。
- あの時代
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