別れてから半年。
綾女は吹雪の中、蓬莱洞にこもる左近のもとを訪れていた。
「そうか、妖刀伝を聞いたか」
「ああ」
左近はじっと焚き火の炎を見つめていた。
久しぶりに会った綾女は妖刀の使い手として自信に溢れており、また幼さが消えていた。
それに比べて自分は・・覚醒するきっかけすら掴みかねている。
「信長を倒すことが我らの運命だと思う」
だから、その言葉に反応したのだ。
「運命?運命か」
鋭い瞳で見据えられ、綾女はとっさに構えた。
「ならば、お前が女を捨てたのも運命なのか?」
畳み込むような口調に綾女はとっさに答えられなかった。
「でもそれは事実だ・・」
ふいに左近の唇が重なった。
「や・・」
左近をはたこうとした右手は、左近の左手によって封じられ、綾女の左手は左近の右手によって動きを封じられた。
深く浅く綾女の唇を味わった左近は、やっと離れた。
うっすらと目を開けた綾女は頬が紅潮し、味わっていた唇はふっくらと色づいていた。
「俺は、お前が好きだ。これも運命か?」
綾女の耳元で囁く。
「わからない・・」
かすれた声で綾女はやっと返事をする。左近はゆっくりと綾女を抱きしめた。綾女は驚いて抗おうとするが、やがてその手を左近の胸にそっと当てた。
「伊賀での別れを、覚えているか?」
綾女は目を閉じた。あの時涙を流したのは、辛い別れをしてきた綾女が、また親しい者との別れを体験しようとしたからだった。
そうだ・・いつしか左近はそばにいて当たり前の存在になっていたのだ。
甘やかな感情が綾女の中に生まれていた。
初めて抱きとめられた頃より、左近はずっと逞しくなって今綾女を抱いている。
「覚えている・・」
左近も綾女の体の変化を感じ取っていた。
硬さがなくなり、力を抜いて左近に身を預けている。柔らかく、暖かい体。いつまでもこうしていたかった。
「綾女」
「何だ?」
「もう一度、いいか・・?」
綾女が顔を上げると、切ないような顔の左近がいた。憎らしいほどに自信に満ち溢れ、時には傲慢にもなっていた左近が、今、綾女を求めている。
「うん」
綾女は左近を見上げ、目を閉じた。
先ほどよりも熱い唇が重なる。一度深く重なって、名残惜しそうに離れた。
「好きだ・・綾女」
「うん」
綾女はとても優しい声で答え、蓬莱洞を後にした。
- あの時代
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