夏、永伏山。
ふたりは出会ってしまった。
男装をしているが、その体つき、身のこなしには違和感があった。
「綾之介」
左近はもっと知りたいと綾女に声をかけるが、綾女はうるさがっていた。ろくに返事もしないし、無視を決め込む。
「まただんまりか」
綾女は鋭い左近から逃れるように細心の注意を払っていた。女だと気づかれないように・・・。
この戦乱の世、女だとばれたら何をされるかはわかっていた。ましてや自分はくノ一。普通の女より好色の目で見られることは間違いなかった。何よりも左近という男がつかみどころのない不思議な男だったからだ。
ひと目会った時から左近は綾女が女であることを見抜いていた。
男装をしているのは身元を隠すため。だがそれ以上に重責が彼女を拘束しているのがわかった。綾女はその華奢な肩にすべて背負っていた。
それに耐え、思念を吹き飛ばすかのような激しい戦い方をする綾女に、左近はいつしか憐憫すら覚えるようになった。
今もすぐそこで綾女は眠っている。
「こんなに疲れた顔をして」
頬にかかった髪に触れようとして、左近は思いとどまる。そして、ふっと笑った。
「起きたら大変だ、怒鳴られるな」
左近はそのまま慈しむような表情で綾女の寝顔を眺めていた。
- あの時代
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