ほどなくして綾女は香澄の里滅亡の真実を突き止めた。
父の弟、綾女にとっての叔父が、家督争いを引き起こし、進之助と相討ちになったのだった。
もともと父と叔父は仲が悪く、性格も正反対であった。一度狙い定めたら逃すことのない蛇のような執念を持っていた。
綾女も何度となく会ってはいるが、身も凍るような目をした男だった。
そして、香澄随一の美貌を誇っていたためか、気に入った女性は人妻であっても嫁入り前であっても片端から手をつけていた。
そしてその矛先が姪である綾女にも向けられた時、父が亡くなり、兄が必死になって敵であった日向に嫁がせようとした。
真実を知り、綾女はもう帰るべき場所はひとつしかないことを思った。
自分の里ではない。
今まで交わることなどなかった、影忍の里。
綾女は細い肩を抱きしめ、嗚咽していた。
「わかったのか?」
背後から左近の声がする。綾女は涙をぬぐい、息を整えた。
「恥さらしもいいところだ。中で争っていたなんて」
「家督を譲る時は多少なりともそういう諍いはあるものだ。日向では俺だけしか継ぐ者がいなかったが、それでも技量を試されたリしたものだった」
左近が綾女の顔を覗きこんだ。
「泣いていたのか。目が赤い」
綾女は目をそらせた。どうも左近は苦手だ。綾女の心が波立ち、頬が、体が熱くなってしまう。
「さ、帰るぞ。色々支度をせねばならん」
「支度?」
「俺とお前の、祝言だ」
最後はさすがに恥ずかしいのか、左近の声が若干小さくなった。
雪解けの遅い日向。だが陽射しはだんだんと春めいてきている。
綾女は縁側に腰掛け、目を閉じていた。春の温かい光が感じられる。
左近のもとに嫁いでひと月。すっかり心開いたというわけでもないが、左近なりの優しさに惹かれている。
香澄での出来事は、今でも心を重く曇らせる。だがここの里の優しさに触れて、だんだんと思い悩む時間が少なくなってきたようだ。
「そんなところで。寒くないか」
いつも左近は綾女を見守っていた。今もこうして綾女のそばに寄り添う。
「大丈夫」
左近の腕が綾女を抱きしめる。左近の温もり。綾女は急に甘えたくなって左近に擦り寄った。
「綾女・・」
何度となく唇が重ねられる。お互いに男と女として愛し始めていた。
- あの時代
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