左近の愛の形から 続編
安土駅に降り立った左近。
431年前の出来事があってから、左近は意図的にこの地を避けてきた。
この地、安土は左近が死んだ場所。そして大きな思い残しをした場所でもある。
その思いが功を奏したのか、記憶を持ったまま現世に生まれてきた。
随分色々な所を捜してきた。たった一人の人と会うために。
「綾女」
愛おしい人の名前。綾女に会うためにはもう、安土しかなかった。
徒歩で安土城址に向かう。よく晴れて風が気持ちよく吹いている。このあたりでは、安土城址は桜の名所でもある。
閑静な住宅地の脇に小さな公園がある。枝をいっぱいにはりめぐらせた桜の木。今にもこぼれそうなほど花が満開に咲いている。奥に進むと堀の跡がある。左に目を向ければ安土山が見えた。
ジャリジャリと玉砂利を踏む足音が近づいてきた。少し離れたところで止まる。
「…左近?」
かすれた小さい声。その声に聞き覚えがあり、振り向くと綾女が左近を見ていた。
「綾女」
「あ…」
綾女が返事するよりも早く、左近は綾女を抱きしめ、熱いキスをしていた。唇が溶けるようなねっとりとしたキスは綾女の瞳を潤ませていた。
「綾女、会いたかった。ずっと捜していたんだ」
左近は綾女を見つめた。あの頃から変わっていない。ただ、あの頃に背負っていた悲しみは薄れ、柔らかい雰囲気になっている。
綾女も左近を見つめていた。悲壮なものはなくなり、今は穏やかだ。
「私も、左近を捜していたの」
「記憶があるんだな」
「うん」
「俺の気持ち、わかっているだろう」
「だって、あんなキスされたらわかる」
綾女は頬を染めた。左近はまたキスをした。
綾女はこの世に生まれてきたが、最近やっとあの頃の記憶がよみがえってきたばかりだった。左近についても昨日今日思い出したばかり。どうしても気になって安土を訪れた。
そして左近に出会ったわけだが、いきなり熱いキスをされ、戸惑いが大きかった。
「あの、私、このあと用事があるの」
「あ、そうなんだ…」
「ごめんね」
メルアドと電話番号を交換すると、綾女は自転車に乗って去っていった。
5分ほどの出来事だった。
- 現代版
- 22 view
この記事へのコメントはありません。