左近が東京に戻ってから、綾女はゆっくり思い出していた。
前世のこと、自分の気持ち、左近の表情、そして左近と出会ってからのこと。
安土山を見れば左近のことを思い出す。夜、一人でベッドに入れば左近の温もりを思い出した。
思い出し、気持ちの整理ができたところで、くすっと笑ってしまった。
今、すべきことが分かった。
安土駅で待つ綾女。左近が降りてくる。
「あれ?どこか出かけるのか?」
「ううん、待っていたの」
「俺を?連絡していなかったけど」
「何となく、わかったのよ」
左近は優しく微笑んで綾女を見つめた。数日前の綾女と雰囲気が変わり、落ち着いている。少女から女性へと移り変わったようだった。
「安土山、今日は桜吹雪よ。見に行かない?」
綾女の言うとおり、桜が散り始めている。
「ここで左近に会ったのよね」
セミナリヨ公園での出会い。左近は思いのまま、綾女の唇を奪った。会いたいと想いつづけてきた女性がそこにいたのだから。
「いきなりでびっくりしたわよ。そして私も思い出して、左近を受け入れてきたのよね」
「そうだな」
「でもね、追いかけるのに必死だったのよ。私の気持ちよりもずっと先を左近が歩いていたから」
「・・・・・・・・・」
左近は黙って綾女を見つめた。綾女も左近を見つめたままでいる。
「すまなかったな、急がせてしまって」
左近の手が綾女の髪をそっと撫でた。綾女の目が優しくなる。左近の言葉が聞けてほっとしたようだった。
「いいのよ。左近がいない間、考えたの。自分の気持ちをね。で、当たり前のことに気づいたの」
うるっと綾女の瞳が潤む。
「左近が好き。今までも、これからも好きよ」
綾女の頬を涙が濡らした。左近が笑う。
「何で泣くんだよ」
「だって、嬉しいの。左近に言いたかった言葉なんだもの。たぶん、前世からずっと伝えたかった」
えへへ、と泣き笑いの綾女。そんな綾女を左近は優しく抱きしめた。
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