「今月は当宿が多くなる。お前に寂しい思いをさせるな」
人形遊びをしていた綾女が、左近を振り向く。
「とのい?」
「ああ。御所に泊まるお役目だ」
そろそろ10歳頃になる綾女は、寂しげに目を伏せた。その表情が大人びていて、左近は胸をつかれる。
「私ならご心配くださいますな。しっかりお勤めくださいませ」
健気なほどに微笑を浮かべ、綾女は左近を見つめた。
いつの間に・・・綾女は世を学び、成長していくのだろう。
「姫様はずいぶん大人になりましたね」
御所へ向かいながら陣平が言った。
「早いものだな。この手であやしたのがつい先日のように思える」
「はい。結局、親元は判明しませんでした」
「ああ・・・」
左近にとって、綾女はもはやかけがえのない人になっていた。
乳母に物語を話してもらっている綾女。いつもならすぐ寝てしまうのだが、今晩はなかなか寝付かれなかった。
「姫様、眠れませんか?」
すでに3巻目を読み終えた乳母に、綾女は眠そうな顔を繕い、笑顔を返した。
「たくさん読んでくれてありがとう。疲れたでしょう?私も眠くなったわ」
「姫様」
「もう遅いから、乳母も休んでね。ありがとう」
綾女は自ら火を消した。乳母は一礼して、部屋から出た。
いつもなら左近の低い甘い声で物語を聞いていた。そのまま左近にもたれて眠ってしまうこともあった。
「左近・・」
綾女は呟いて、眠りに落ちた。
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