綾女と出会う前、左近はほとんど毎晩あちこちの姫君のもとを渡り歩いていた。
その整った顔立ち、甘い声、逞しい体、話術の巧みさに姫たちは虜になった。
それが綾女と出会ってからぴたりと訪れなくなったのだ。
毎日たくさんの恋文が左近のところに送られてきた。それに左近は丁寧に返事を書き、断っていた。
5年たち、さすがに当時の姫たちも結婚して文も少なくなった。だが数名とはまだ文を交わす仲である。
綾女にはその姿を見せることはなかったが、うすうす感づいていた。
「左近には、誰か心にかけたお方がいるのかしら」
綾女の呟きを、乳母は否定した。
「いえ、姫様だけですよ」
「え?」
16歳の綾女は乳母を振り返った。
「姫様は・・・、大人になりましたね。私は嬉しゅうございますよ」
見れば見るほど、綾女は人並みはずれた美貌と優しい心根の女性に成長している。乳母が言ったとおり、左近は綾女をひとりの女性として認め、それ以上の感情を持っていた。だが綾女にはその自覚が薄く、傍から見ればもどかしい部分もある。
「本当に、左近様と並ぶと美男美女でお似合いです」
綾女は少し悲しげに首を横に振った。
「いいえ、まだ大人ではないわ。それに私は、普通の人とは違うもの。5年で16歳になって、どんどんみんなの年を追い越していくのよ。左近の年もいずれ追い抜いて、寿命を終えるのよ。だから左近とともに生きられる時間は短いの」
「姫様」
「左近には、私よりも共に生きて共に年老いていかれる方がふさわしいのよ」
綾女は立ち上がり、自室にこもってしまった。
懐から肌身離さずに持っていた小太刀を取り出し、じっと見つめる。小太刀は淡く青い光を帯びていた。
「この小太刀がすべての謎を明かすと思うのだけど、私にはわからない・・・」
- HIT記念
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