丸い月。
天空を二分する巨大な彗星。
焦げた臭いが立ちこめる、城跡。
綾女は呆然と立ちすくんでいた。
地面に横たわるふたり、左近と蘭丸。
左近はかろうじて息はしているが、予断は許さない。対し、蘭丸はすっかり邪気の抜けた顔で、これも虫の息。ふたりとも腹部を貫かれている。
ランマルハホオッテオケバイイノサ。
綾女の中の邪気が呟く。
オマエタチヲコロソウトシタ。マモナクシヌ。
綾女が決断を下す前に、城下にいた人々が十数人来た。
「まだこのふたりは息があるぞ」
「あなたも怪我をしている、こちらへ」
綾女が何か言う暇もなく、あわただしく運ばれていくふたり。
手当てを受け、薬湯を飲むと綾女は静かに眠りに落ちていった。
蘭丸は本能寺で弟ふたりを亡くした。
すでに覚醒していた蘭丸は影武者を使い、信長とともに安土に戻ることができた。だが弟たちは覚醒することもなく、そのまま人として死んでいった。
それを知ったとき、蘭丸は血の涙を流す。
自分のこの呪われた身体こそ、尽きることを願っていたというのに。
戦国の世の習いとはいえ、次々と子を失った母の思いはいかばかりか。
やがて蘭丸は妖刀で身体を刺し貫かれる。
「これでやっと、死ねる」
そう思ったことを覚えている。
- HIT記念
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