どれくらい駆け続けただろうか。
川を見つけ、綾女はやっとその足を止めた。振り返ると木々の向こうに赤い空が見えた。
「兄上、高久様・・」
深い絶望が襲ってきた。あの惨状の中、もはや2人とも生きてはいないだろう。足から力が抜け、綾女は座り込んだ。
「だめ、こんなところに座り込んでいる場合ではないのに」
自分に言い聞かせるが、体は動かなかった。
「おい」
男の声が聞こえた。条件反射のように綾女の体が飛びのく。手には手裏剣を構え、気配をうかがっていた。
「お前、香澄の里の者か」
「何者だ・・」
「俺は、左近という。日向の里の者だ・・。あれは」
男が近寄ってきた。綾女は小太刀を抜き、男に向かっていった。
「寄るなっ」
左近の太刀と綾女の小太刀がぶつかり、鋭い金属音を発した。
さらに向かってこようとする綾女を左近は制した。
月明かりが2人の顔を照らす。
「香澄も、やられたのか・・」
綾女は力なくうなだれた。
「俺の里もやられた。生き残ったのは俺だけだ」
焚き火を囲って左近は話した。
「お前のほかに生き残ったものはいるのか?」
「直前に2人・・でも、あの中生きてはいないだろう・・」
綾女は涙を隠すように膝に顔をうずめた。
「お前はこれからどうする。女ひとり生きていくには、やはり誰かに嫁いで・・」
綾女は首を振った。
「いいえ。私は葉隠れの里にこの小太刀を持っていかなくてはなりません。それにもう私に帰るところはない・・。嫁ぐなどと・・」
高久の顔が浮かんだ。
「そうか。俺も葉隠れに行かなくてはならない」
2人は道中を共にすることにした。
- HIT記念
- 51 view
この記事へのコメントはありません。