眠っていた綾女は、外のただならぬ気配に目が覚めた。すばやく身支度を整えると、外に炎が見えた。
「綾女、いるかっ」
進之助の声が聞こえ、外に出る。すでに我が家は火がつき、綾女の目に、座敷にかけてあった白無垢がメラメラと燃え上がる様が映った。
「進之助殿、綾女殿」
高久が駆けてくる。
「皆は?里の皆は?」
広場に駆けながら聞くが、返事より早く奇声が聞こえた。
「何だ、あれは・・」
三つ首の巨大な化け物が火を吐き、逃げ惑う人々を食らっている。人の断末魔の悲鳴、泣き叫ぶ声、化け物が発する臭気、炎の熱さ・・。
「綾女」
進之助が綾女の肩に手を置き、言い聞かせるように言った。
「この御神刀を持ち、葉隠と日向の里に行くのだ。よいな」
そして高久を見る。
「高久。綾女と一緒に行ってくれ。ここは俺が引き受ける」
「いや、俺も戦う」
「何を言う。お前は綾女の夫となる身だ。妻を守らぬ男がどこにいる」
「進之助。ここで口論している間に皆が食われていく。二人で食い止めねばらちはあかないだろう。綾女殿、先に行ってくれぬか」
すすけた顔で笑顔を見せる高久。綾女は御神刀をしっかりと胸に抱いた。
「わかりました」
綾女は山の中の道を駆け出した。進之助と高久は太刀を構え、化け物にかかっていった。
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