綾女は自室で眠れずにいた。何度も寝返りを打つ。
再開したときの感情は、嬉しいよりも戸惑いのほうが大きかった。
忘れていたわけではない。
色々なことがありすぎて、ゆっくり考えることも怠っていた。
香澄の里で暮らしていた時は、兄進之助と無二の友人だった高久。小さい頃から一緒に遊んでいた。兄と同じように慕ってはいたが、長じても、恋と呼べるには程遠かった。
なぜ、あの時泣いたのだろう。
まだ私に女として生きることが許されるのか・・?
そう思ったからだ。
左近にも言われた。
運命だという前にお前はひとりの人間であり、ひとりの女であることを忘れるなと。そのあと・・。
綾女は頬を染めた。そして愕然とする。
私が頬を染める相手は高久のはず。けれどどうして左近が・・?
とうとう綾女は眠れずに夜を明かした。
小春日和の縁側で、縁側の柱にもたれつつ綾女はぼんやりしていた。
・・暖かい。眠い。
うとうととしかけるも、はっと目を開く。そんな綾女を左近は笑いをこらえつつ見ていた。
「何だ、寝不足か」
綾女の隣に腰を下ろす。綾女は何事もないように柱から体を離した。
「さっきからうとうとしているぞ。日向ぼっこしている婆さんのようだな」
「婆さん?」
ぼんやりと返事をする。左近の声が遠くに聞こえる。
「それも悪くない・・」
体がゆっくり傾き、柱にもたれた。そのまま寝息を立てている。左近はそっと掛け物をかけた。
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