綾女がホスピスに入院してまもなく、クリスマスの時期。
綾女に外泊の許可が下りた。
左近も綾女も久しぶりに自宅で過ごす1日。
すでに食欲が落ち、歩くこともやっとになっていた綾女は外泊することでただでさえ忙しい左近に迷惑をかけてしまうと思い、気乗りしなかった。
「綾女に帰ってきて欲しい」
左近の心からの願い。その外泊はもう後がないと知っていたからだった。
自宅に帰ると左近はてきぱきと動き、綾女が何もせずにすむようにした。綾女はコタツに入り、そんな左近を眺めていた。
少しずつ食事をとりわけ、綾女は本当に美味しく食べることができた。
綾女を抱き上げ、ふたりが寝ていたベッドに寝かせる。左近は床に布団を敷き、そこで寝ようとした。
「左近」
甘くやさしい綾女の声。
「ね、一緒に寝て。いつもと同じようにして」
左近は起き上がり、綾女の細くなった手を握る。
「いいのか?」
「いいの。左近と一緒に寝たいの」
左近は綾女を腕の中に抱き込んだ。いくらか細くなったが、張りのある身体。綾女が身体を摺り寄せた。たまらず左近は唇を重ねた。何度も、何度も角度を変え重ねていくうちに、綾女の吐息が甘くなってきた。左近の身体も反応している。
「左近・・抱いて・・」
「だめだよ、綾女。体力を消耗しちゃいけない」
「ゆっくりなら、大丈夫よ・・・」
左近は体を離した。綾女が泣きそうな顔をした。
「左近が言いたいことはわかるわ。でもね、私は左近のすべてを受け入れたいの。このときのために体力を温存してきたの」
「わがままを言うんじゃない。何かあったらどうするんだ」
「左近はこの外泊が最後だと知っているのよね。私も同じよ」
綾女はまっすぐ左近を見つめていた。
「だから・・それだから私は後悔したくないの。でも左近がどうしても嫌なら、無理は言わない・・」
左近は綾女を黙って抱き寄せた。拒むことの多かった綾女がこんなにも望んでいる。
「いいのか・・?」
綾女は嬉しそうに擦り寄った。左近はゆっくり綾女を押し倒す。
ゆっくり左近は綾女を愛しはじめた。綾女の甘い吐息、汗ばむ肌、何もかもが愛おしかった。
やがて左近は思いのたけを綾女の中に注ぎ込む。綾女も深く達してすべてを受け入れた。
「好きよ、左近」
綾女は左近の腕の中でゆっくり目を閉じた。
ホスピスに戻って数日後、綾女は昏睡状態になった。
静かに静かに命が流れ出していく。誰もそれを止めるすべを知らず、ただ綾女を見ていることしかできなかった。
大晦日。綾女が不意に覚醒した。左近が手を握り、綾女を見つめる。
「いてくれたのね、左近」
はっきりとした口調。瞳もキラキラとしている。
「おはよう、綾女」
綾女の長い睫が何度か震えた。
「左近・・ありがとう。こんなに長い間私を待っていてくれたのに、ごめんなさい・・」
「何を言うんだ」
「また、会えるよね」
「当たり前じゃないか。また綾女を見つけ出して愛していく・・」
「うん・・私も・・左近を見つける・・」
綾女は目を閉じた。涙が目尻を流れ落ちる。
「大好き・・」
口元が優しく微笑み、綾女の人生は終わった。
「綾女・・・っ」
左近は綾女の手を握りしめ、声を出さずに涙を流した。
歳月は流れ、観月会の季節がめぐってきた。
月は同じように左近を照らしていた。
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