肩の辺りで切りそろえられた黒髪が揺れ、左近を振り返る。
「あ、お帰りなさい。お風呂沸いているから先に入って」
「ああ、ただいま」
15歳になった優花。15歳といえば、初めて綾女に会ったときの年。
優花は姿も性格も綾女似だが、声は少し高い。なかなかの美人だが、綾女の方がさらに美女だ。
まぁ、美男の俺との子供だからな。
「またそんなことを言って」
そういって綾女がすぐに顔を出しそうだな、と左近は思った。
優花の入園式。
仄かな桜色の着物を自分で着付け、綾女は左近の前に現れた。黒髪を纏め上げ、うなじが色っぽい。いつもよりやや濃い目のチーク。
優花を産んでから、綾女はさらに美しくあでやかになっていた。そんな綾女を左近はますます愛し、近所でも評判の美形家族だった。
親子で幼稚園の正門に立ち、記念写真を撮った。
帰宅後、優花のけたたましい声に左近が駆けつける。
綾女は、着物の姿のまま、リビングのソファで静かに旅立っていた。
「10年・・か」
綾女の写真を見る。少しも変わらず、愛おしい綾女が微笑んでいる。
幼い娘と左近を遺して、綾女はどんな思いだったのだろうか。
再婚話もいくつか舞い込んできたが、左近はすべて断った。
若い頃はむさぼるように綾女への愛を貫いた左近だったが、今では染み込んだ愛と思い出を胸のうちで大事にしまっている。
「ご飯できたよー」
「今いく」
左近はもう一度綾女の写真に微笑みかけた。いつかきっと、また会えると信じて。
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