綾女が左近をそっと振り返った。
「これでおぬしも看病から解放されるな」
左近はふっと笑った。
「そうだな。お前には詫びなければならないな」
手当てが済み、綾女は帯を結びながら左近に向き直った。まっすぐ左近を見つめる。
「詫びなど。私が傷を負うことで左近を庇えたと思っているのに。左近が傷つく姿は見たくなかった。だからあの時とっさに動いてしまった」
「無謀な」
「確かに無謀な、命知らずの行動だった。これからは気をつける。心配かけて、すまなかった」
綾女はうなだれた。左近はそっと綾女の左肩を抱き寄せた。抵抗もせず、左近の腕の中におさまる綾女。
今だけ、この愛おしい存在を胸のうちに収めておきたい。
左近はそう願った。
この出来事があってから、二人の距離は少し近くなった・・・気がする。
そう思うのは俺だけだろうか。
回復したと見るや綾女は駆け回っている。あの細い体のどこに膨大なバイタリティがあるのだろう。ただでさえ暑いのに。
夜になっても暑いままで、左近は近くの滝へ行った。夜中なので誰もいないと思っていたが、先客がいた。岩に腰掛け、裾を膝上まで上げて、足を浸けたり、水面を蹴ったりしている。綾女だった。
- あの時代
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