「静かだな・・」
左近の言葉。
「ああ、静かだ」
綾女が左近を見下ろしたとき、すでにその目は閉じられていた。
「左近・・・」
涙があふれ出てくる。どうして、今になって左近が綾女を愛していたことに、今気づかされるなんて。
「いや・・」
綾女はゆっくり首を振った。左近の顔を両手でそっと挟み、唇を重ねた。その唇は確かに冷たくなっていたが、手にふと鼓動を感じた気がした。
「?」
そっと左近の頚動脈に触れると、強くはないが脈が感じられた。
生きている。
綾女の顔が明るくなり、助ける手立てを考える。一刻の猶予もないだろう。
「これは何としたことだ」
数人の気配がする。綾女はその声に聞き覚えがあった。
安土城下で今夜を待っていた間、綾女が体調を崩して診てもらった医者、悠庵だった。
「悠庵殿」
綾女が呼ぶと悠庵は数人を引き連れて寄ってきた。
「この者を、お助けください」
悠庵はすぐに左近の脈を取り、少し難しい顔をした。
「これはひどい。すぐに私の家へ」
左近は手当てのために悠庵の家に運ばれた。
「綾之介殿」
「はい」
悠庵は綾女を呼んだ。
「左近殿は一部内臓を縫うことになる。傷の手当はさほど複雑でもないが、いかんせん出血量が多い。意識もない。完全に助かるとは言い切れないが、それでもよいか」
「はい、お願いいたします」
「わかった」
- あの時代
- 110 view
この記事へのコメントはありません。