「冥府魔道が閉じていく・・左近」
綾女は石垣の上から左近を見下ろした。左近は立って綾女を見上げている。
「やったな、綾女」
「ああ、やった・・」
また足元がふらつく。忍びらしくもなく綾女は石垣から落ちて・・。左近の腕の中におさまった。
「大丈夫か、綾女」
左近がゆっくり綾女を地面に下ろした。
「龍馬が・・体を厭えと言っていたが?」
綾女は恥ずかしげに顔を染めた。左近は感づいた。
「まさか、お前・・」
綾女は目を伏せたままでうなづいた。
「そんな体でよく・・俺を心配させるな」
「すまなかった」
「もしやあの折の・・?」
「左近の他に誰がいるというんだ。左近のせいだからな」
左近を睨む目も左近にとっては可愛いだけだった。優しく綾女を抱き上げ、歩き出す。
「馬鹿、やめろ、ひとりでも歩ける」
「無理はするな」
「離せ、下ろせ」
「たまにはいいではないか」
「恥ずかしいだろうがっ」
「誰も見てはいないぞ?」
「見ていなくても私が嫌なんだ」
左近の足が止まる。
「そんなに俺が嫌か?」
甘い声が綾女をくすぐった。
「いや、そうじゃなくて、やっぱり恥ずかしいから、下ろしてほしい」
最後は消えゆくような声だった。左近はゆっくり下ろした。苦笑している。
そして二人は安土から去っていった。
- あの時代
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