左近のいない夏が過ぎていく。
綾女は夏休み中、実家に帰っていた。
「ただいま」
春以来の我が家。15歳まで育った家。
「あら、綾女ちゃん、おかえり」
兄進之助の妻、雪乃が大きなおなかをして現れた。綾女より年上だが、幼馴染だ。
「ずいぶん大きくなったねぇ」
「もうすぐ生まれるのよ。けっこうやんちゃで」
「もうどっちか教えてもらったの?」
「ううん、生まれてくるまでのお楽しみ。でも私は女の子のような気がするのよね」
母が家に入ってきた。
「おや、おかえり。そんなところで立ち話して。中に入りなさいよ」
昔ながらの広い日本家屋。縁側に涼しい風が吹き抜ける。
「はい、どうぞ」
雪乃が冷たい緑茶を持ってきてくれた。どっこいしょと座布団の上に座り、縁側の柱に寄りかかる。
「ありがとう。ん。おいしい」
雪乃はニコニコして綾女を見ている。
「ね、綾女ちゃん。彼とはどうなの?」
綾女は思わずむせこみそうになった。
「え?まぁまぁだよ」
「すごくきれいになってきたもん、愛されているのね」
「え?そ、そう?」
「誰が見たってわかるわよ」
綾女はどきどきしていた。やっぱり言うべきだろうか。生真面目な綾女は悩んだ。
「あのね、私・・。?」
雪乃が苦しげにしている。
「雪乃ちゃん?」
「来たかも。お義母さん呼んで」
綾女は母を呼んだ。
「来たのね。雪乃ちゃん、歩ける?」
「うん、大丈夫」
母に抱えられながら雪乃はゆっくり歩き始めた。
「お母さん、病院どこ?市民病院?」
「そうよ。進之助がもう帰ってくると思うけど、携帯に連絡・・」
綾女はすでにかけている。
「あ、兄さん。今どこ?え?」
綾女は外に出た。進之助が走ってくる。
「兄さん、車出して。生まれそうなのよ」
「なんだって?大丈夫か」
言いながら進之助は車のエンジンをかけた。母と雪乃が後ろに乗る。
「綾女ちゃん、身の回り品一式私の部屋にあるの」
雪乃が言う。
「うん、お父さんに連絡したらすぐに持って病院に行くから」
「綾女、頼むわね」
車は出て行った。
- 現代版
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