「じゃあ、私帰るね」
「送るよ」
通勤途中のため、進之助が車で駅まで乗せていってくれた。
「ずいぶん早い時間だな。明日から学校なのか」
「来週からだけど、色々準備もあるんだ」
「そうか」
「兄さん、桔梗には絶対オバサンという言葉を教えないでね。お姉ちゃんよ、いい?」
「なんで俺にそれを言うんだ」
「兄さんが一番言いそうだから、念押し」
「了解、おばちゃん」
「もう!」
進之助は笑った。そしてふとその端正な顔を引き締めた。
「綾女、お前男がいるのか」
「え」
ぎくっとした。
「お前もそういう年頃だ。いてもおかしくはない。そう思って聞いてみたんだが・・・図星のようだな」
「え、いや、その、あの」
「もしかすると一緒に住んでいるのか。まさか、もう体も」
綾女は真っ赤になった。もうバレバレである。
「まあ察しはついていた。どんな人だ?」
綾女は左近について話した。
「そういえば、小さい頃よくお前うなされていたな。左近、死なないでとか言っていた。その左近と、巡り会ったというわけか」
「不思議な話だから信じてくれとは言わないよ。でも記憶のことや見たこと聞いたこと、すべて照らし合わせるとやはり因縁を感じてしまうの。で、やっぱり左近はもう私にとってなくてはならない人なの」
「そうか」
車が駅のロータリーに滑り込んだ。
「そんなに想う人なら、今度連れて来い」
進之助が少し笑った。
「え、いいの?」
「お前が全部話せよ。父さんも母さんも知らないんだから」
「うん、わかった。送ってくれてありがとう」
綾女は輝くような笑みを残して、改札に向かっていった。
「左近、男としてちょっとだけお前が羨ましいな」
進之助は一抹の寂しさを感じていた。
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