コーヒーの香りで左近は目が覚めた。
綾女は起きており、パンにバターを塗っていた。
「おはよう」
声をかけると振り返るが、真っ赤になっている。
「お、おはよ。パンを焼くから、顔を洗ってきてね」
左近が洗面所に姿を消すと、綾女はそっとため息をついた。
「びっくりした…」
パンの上にピザソースを乗せ、トマトとピーマンを散らしてチーズを振りかける。トースターに入れてサラダを冷蔵庫から出した。動きはいつもと一緒だが、まるで心ここにあらず。
さっきの左近が色っぽく、自信に満ちた男に見えたのだ。その左近に自分は・・・。
「おー、いい匂いだな」
綾女はパンがいい具合に焼けてきたのを見ると、温めていたカップにコーヒーを注いだ。
「綾女」
「え?」
左近の唇が重なる。
「おはようのキス。さ、食べよう。うまそー」
しばし綾女は固まっていた。
荷物の整理をしに左近はいったん東京に戻っていった。駅で見送った時も熱いキスをされてしまう。
いつもの喫茶店に寄る。
「あら」
佳代がすぐに気が付いた。
「え?なぁに?」
「綾女さん、とうとう左近さんと?」
「え!なんでわかるの?」
その態度で丸わかりだ。
「女性としての色気よ。左近さんは嬉しいでしょうね。長く想いつづけていた女性とやっと結ばれたんですもの」
うっとりと語る佳代。それからは極上の機嫌で鼻歌まで歌っている。
帰宅し、洗濯物を取り込む。たたみながら佳代の言葉を反芻していた。
左近のことを思い出して10日くらいしかたっていないのに、ここまで進展してしまった。思い出してからは愛おしさと戸惑いが常に表裏一体している。もう少しゆっくり思い出して気持ちの整理をつけたいが、左近の勢いに押し流されてしまう。左近の不在は本人には申し訳ないが、綾女にとってはありがたかった。
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